2021年12月09日 公開
2023年02月21日 更新
クリティカルシンキングに紐づく発想法に、「弁証法」と「背理法」があります。弁証法は、二つの異なる意見を戦わせて、そこから新しい結論や新しい発見を導く方法です。異なる価値観や意見を持った人々が共通の答えを見つけるために非常に有効なので、ビジネスの交渉の場面でもよく用いられています。
背理法は、相手の意見が正しいという前提で議論を進めつつ、相手に論理的矛盾を起こさせて、意見を取り下げさせることで自分の意見を通すアプローチのことです。背理法は、お客様や上司など直接相手を否定することができない場面で、やんわりと意見を変えてもらうために活用することができます。もちろん、上司が部下の気づきを促すためにも使えるので、最近ではコーチングのメソッドとしても取り入れられています。
どちらも対人用のコミュニケーション手法として非常に役立つものであると同時に、異なる意見を持つ相手が本質的に何を望んでいるのかを理解する必要があるので、クリティカルシンキングを鍛えるためにも有効な方法であると言えます。
【課題】輸送時に商品が壊れないよう、緩衝材として同梱される発泡スチロールやクッションペーパー。開封後はごみになってしまう。このごみを減らすためには、どうしたらいいだろうか。
【解決策の例】
・ロジカルシンキング
→緩衝材をエアクッションに代え、開封後は空気を抜くことでごみの嵩を減らす。
・ラテラルシンキング
→すぐごみになるものではなく、受け取ってうれしいものを緩衝材にする。例えば袋入りのポップコーンやマシュマロなど。
・クリティカルシンキング
→「なぜ緩衝材が必要なのか」を考える。緩衝材を入れる目的が、「商品が箱の中で動かないようにすること」ならば、密着パッキングで商品を固定すれば、いかなる緩衝材も不要になる。
【メモ】この中でもごみが少なくなるのはクリティカルシンキングによる解決策ですが、必ずしもクリティカルシンキングが一番優れているとは限りません。実際に一番使われているのはエアクッションです。大手企業では密着パッキングが増えていますが、小規模な小売店などでは、エアクッションがもっとも手間やコストがかからないからです。
一方、ユニークさを売りにしている個人商店などでは、「食べられる緩衝材」を使うことで話題作りをすることもあります。実際にかけられる手間やコストなども考慮して、総合的に一番ふさわしいものを選ぶことが大切です。
【課題】制服のワイシャツの裾を出してだらしなく着ている生徒が多い。どうしたらきちんと着てくれるようになるだろうか。
【解決策の例】
・ロジカルシンキング
→指導を徹底し、シャツが出ている生徒がいたら、都度注意する。それでも直さない生徒には反省文などの罰則をつけてはどうだろう。
・ラテラルシンキング
→裾を出すのは、その着方がかっこいいと思っているから。シャツの裾に名前欄をつけて、「裾が出ているとかっこ悪いシャツ」にすれば、自発的にしまうはず。
・クリティカルシンキング
→裾を出して着るとだらしないなら、裾を出してもだらしなくないシャツに替えればいい。例えば、ポロシャツなら、裾が出ていてもワイシャツほどだらしなくは感じない。
【メモ】「シャツの裾が出ているとだらしない」という課題に対しては、シャツの裾が出ている生徒を注意して服装を直させる方法が、もっとも一般的に行なわれているものでしょう。しかし、実はラテラルシンキングもクリティカルシンキングも、実在する事例です。シャツの裾に名前欄をつけた学校が、夏服にはポロシャツを採用していると言います。
日本の組織は構成員が同調することで組織的なパフォーマンスが向上し、成果につながるという環境を持っているところが多いので、現状に異を唱えることから始めるクリティカルシンキングはなじまない面があります。この学校は、そうした意見が受け止められる土壌があったことも、ユニークな解決策が生まれた要因なのではないかと考えられます。
〈PROFILE〉吉澤準特 Juntoku Yoshizawa
外資系コンサルティングファーム勤務。ビジネスからシステムまで幅広くコンサルティングを行なう。専門分野であるシステム運用改善をはじめとするインフラ領域を中心に、ファシリテーションやコーチングも手がける。著書に『ビジネス思考法使いこなしブック』(日本能率協会マネジメントセンター)など。
更新:11月24日 00:05