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デジタル化の遅れは取り戻せるか...日本を停滞させた「その場しのぎ」の風潮

2021年12月08日 公開
2023年10月31日 更新

Lars Godzik〔Ginkgo創業者/パートナー(共同経営者)〕、太田信之〔OXYGY株式会社 代表取締役/アジアパシフィック代表パートナー〕

 

変革を妨げる文化的障害

一つの理由は、現代の感覚で機敏性を考えるとき、日本の文化が、まさに正反対であることです。アジャイルな働き方で生産性を上げられないのは、伝統的なリーダーシップ、時代遅れの管理体制、不適切な組織体制に一部起因すると考えます。

日本では、ヒエラルキー(階層)の構造や、どのような組織に所属しているかが、安全性や安心感を得るための重要な要素となっています。階層レベル、すなわち裁量権や意思決定できることの定義は明確で、多くは顕在化しています。

にもかかわらず、多くの「関連部署」や「上位の会議での共有」によりコンセンサスをとる形で意思決定のプロセスが一般的です 。最終的に、誰がどのような責任と理由で意思決定をしたのかが、わかりにくくなります。

一方で、現在の管理方法は、実行することよりも、詳細に計画をすることに重きを置いています。それは、アジャイル的マインドセットには絶対に合いません。ヒエラルキーを元にした組織では、組織の長への責任が集中し、その中でコンセンサスを元にしたコミュニケーションをすることは、決断に時間がかかります。素早く動き、変革する環境が必要な中では、この働き方と組織の形が、大きな障害になることが証明されています。

 

リスクを取らないというリスクの結果

日本はデジタル化や組織変革の点で他の諸国よりも遅れています。それは、歴史的に非効率なリスクマネジメントについての考え方にもよく表されています。日本の全体的な政策決定のアプローチは、その場しのぎで、戦略的に国家としての優先順位を「決めない」というのが基本のやり方です。

結果的にこうした曖昧な意思決定アプローチが、極端なリスクを取る行動から国や企業を守ってきた、という考え方もあります。しかし、社会全体が大きく変わる中で、日本におけるイノベーションへの舵取りを遅らせ、世界をリードするポジションを取りそこねてきたとも言えます。

言い換えると、国の最大の弱点は、新しい環境に素早く柔軟に対応することが苦手であることです。最新の事例でいうと、COVID-19のワクチン接種が一つの残念な事例といえるかもしれません。

今でこそ先進国の中での接種率は高い状態となっていますが、2020年後半には、ワクチンに懐疑的な人々も多く、そうした人々に対して接種を強力に押し進めるような拙速な決定と行動を避ける、という風潮がマスコミを賑わせていました 。

結果的にはワクチン接種は順調に進んで事なきを得ましたが、その立ち上がり時のオペレーションには相当の混乱がありました。逆に一度運営が始まり、ある程度の定着化をみるとそこからのカイゼンはお得意の領域として、相当効率的なオペレーションを構築しました。

こうした状況の中で、個々のチームの携がしづらく、組織横断的な業務の効率的な働きができないことは、大きな課題です。コンセンサスを中心とした業務プロセスを通じて、意思決定のスピード低下をまねき、それと同時に実行が遅れがちになります。

集団主義において不明瞭なことを全力で避けようとする体質は、専門領域での交流において一番大きな影響を与えています。「相手の顔に泥を塗る」ことが、最悪の行為だと恐れられている文化において、失敗は、学習体験というより落ち度とみなされます。日本文化では、過ちは穢(けがれ)であり、禊などを通じて清めるべきであるとも言われています。

一方で、欧米では創業者や会社経営者は、自分の一番大きな失敗談やそこから学んだことを「ファックアップナイト(注:"大失敗を語る会"のような意味)」のようなイベントで大々的に公表して、失敗を穢らわしいものではなく、学ぶべき資産だとしています。

日本では、アメリカと違って、能力や経済実績より、努力や貢献度が成功や失敗に直結するとみなされ、長時間労働や無休暇労働等の、自分の時間をどれだけ使ったかが評価されるようになっています。最近のデータでは、罪悪感、つまりは「過労社会」において痛みに耐えることや期待に応えることが重要とされていることを表しているようにも見えます。

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