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立場が上になるほど「誰かが見ている」...結局は“部下第一”が重要な理由

2021年08月13日 公開
2023年01月12日 更新

丹羽宇一郎(元伊藤忠商事会長/元中華人民共和国特命全権大使)

 

絶体絶命のピンチに感じた「サムシンググレイト」

また丹羽氏は「リーダーを務めるのであれば、『サムシンググレイト』を感じられる人間であってほしい」とも語る。

「昔、東京帝国大学の総長を務めた方が『神の存在を感じられるような人生を送れれば……』と言ったことがあります。この言葉を知ったときの私はまだ若くて、無神論者でしたし、『自分の人生は自分の力で切り拓いていくんだ』と思っていました。今振り返れば、ずいぶん傲慢な人間でした。そのために、周りの人たちにも迷惑をかけたと思います」

ところが、そんな丹羽氏に転機が訪れた。30代半ばの頃、丹羽氏は米国に駐在し、大豆の相場の取引に携わっていた。あるとき、相場の見通しを読み間違えた丹羽氏は、含み損として、莫大な損失を会社に与えてしまったのだ。

「あのときの私は、クビになるか、それとも先に自分から辞表を出そうかと真剣に悩みました。しかし『クビとか辞めるとかなら俺が先だ』との上司の言葉に、それでも諦めずに、『もしかしたら、天候の変化など、大豆の収穫に大きな影響を与える出来事が起きて、情勢が大きく変わるかもしれない』と考える力を得ました。

現地に足を運び、民間の気象会社の情報と気象庁の資料を付き合わせて分析するなど、必死に情報収集をして、相場は急騰するだろうと予測。その読みに自分の人生のすべてを投ずる決意をしたのです」

秋口になると、丹羽氏の予測通り、相場が好転し始め、損失を回収できたどころか、逆に利益を出すまでに挽回した。

「このとき私が感じたのは、人間の力を超えた何かの存在でした。確かに私は『相場は急騰する』と神に祈る気持ちでしたが、本当に相場に影響をもたらすような天候の変化が起きるかどうかは、私の力のおよばぬ範囲です。

私はいまだに無神論者ですが、この人間の力を超えた何かのことを『サムシンググレイト』と感じました。絶体絶命のピンチに直面したときでも、状況を打開するために懸命に取り組む私の姿を、『誰か』が見ていたのではないかと感じたのです」

 

立場が上になるほど「誰かが見ている」

「サムシンググレイト」を信じるようになって以来、丹羽氏は生きていくうえでの姿勢が変わったという。

「どんなときでも『クリーン、オネスト、ビューティフル』であろうと考えるようになりました。誰にもばれないようにやっているつもりでも、誰かがきっと見ています。仕事で手抜きをしたときでも、道徳的によくないことをしたときでも、誰かが必ず見ている。

ですから、その見ている誰かから『こいつは悪いこともせず、いつも一心不乱に働いている』と思ってもらうためにも、清く正しく美しく生きていなくてはいけないのです。

学校を出てから20年も30年も誠実に働いていれば、誰しもピンチに直面したときなどに、人間以上の力と言ってよい『サムシンググレイト』を感じるときを経験するはずです。その瞬間のことを、もう一度思い出してみていただきたいと思います。

人は、組織の中で地位が上になればなるほど、どうしても驕りが出てくるものです。謙虚さを保ち続けるためにも、『誰かがどこかで自分を見ている』という意識を常に持っておくことが大切です」

 

部下との対話には五感を使うべき

リーダーたる者、いざというときは自分が責任を取るという覚悟が大切。一方で「あの人一人に責任を負わせるわけにはいかない。こんなときこそ自分たちがリーダーを支えよう」と言ってくれる部下をいかに持てるかも重要だ。部下との信頼関係を築くためにリーダーがするべきことは何だろうか。

「私は、『人は自分の鏡だ』と思っています。リーダーが部下のことを『どうもこいつのことは好きになれないな。信頼できないな』と思っていれば、部下も『自分は上司から嫌われているな。信頼されていないな』と必ず察知します。

ですから、部下との信頼関係を築きたいなら、まずは自分のほうから、その部下の優れている部分を見つけて、認めてあげることです。もちろん、人間だから相性の良し悪しはありますが、上司が部下を信頼すれば、部下も上司を信頼するようになります」

また丹羽氏は、部下に対して「五感を使って接すること」も大切だと話す。

「私は、仕事も読書も、身体全体を使って取り組むことを大切にしてきました。読書であれば、読んで終わりではなく、感銘を受けた箇所に線を引き、メモを取り、折に触れてそれを読み直すことで、ようやく自分の血や肉になっていきます。

部下との関係で言えば、表面上の言葉のやりとりだけで部下を理解しようとせず、部下の表情やしぐさ、声のトーンなどから、五感を使って感じ取るようにしないと、本心では何を考えているのかや、ちょっとした心の変化などに気づくことができません。

そういう意味では、オンラインでのコミュニケーションには、やはり限界があります。相手の顔は見えますが、息づかいまでは伝わってきません」

しかし、コロナ禍においては、ある程度はテレワークを実施せざるを得ないのも事実だ。

「もちろん、すべてを対面に戻す必要はありません。顔を合わせなくてもできる仕事もたくさんあります。しかし一方で、『ここは1対1でじっくりと膝をつき合わせて話さなくてはいけない』という場面も必ずあるはずです。

対面でコミュニケーションを取れる場面が限られているのなら、なおさら対面の重要性を意識したうえで、ここぞという場面で対面することが必要です。難しい時代だからこそ、リーダーの工夫が求められます」

 

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