2021年08月06日 公開
2023年02月21日 更新
中でもインパクトが大きかったのが、今年3月に開かれた東芝の臨時株主総会で、筆頭株主の投資ファンドが提案した議案が、賛成多数で可決されたことだ。
その内容は、昨年の定時株主総会の運営について第三者による独立調査を求めるというもの。株主が開催を求めた臨時総会で株主提案が可決されるのは、大企業では異例のことだ。
「これは日本のコーポレート・ガバナンスにおいて、画期的な出来事です。まず議決権の多くを持つ日本のトラディショナルな機関投資家の間で責任投資原則への署名が進み、議決権行使における独立性を重視するようになった。
これまでなら、企業とのつきあいやしがらみから、会社提案に賛成していた機関投資家が、『責任投資原則に則れば、アクティビスト提案に票を入れるべき』と判断したのです。ただし機関投資家だけでは過半数に達しない。そこに個人投資家の票が加わったから、賛成多数で可決されたのです。
例えば全部で100票あるとして、51票取れば多数派になれます。東芝の件は、自分の1票が物事を大きく変えるかもしれないことを、日本の個人投資家が体験した貴重な出来事でした。これが個人投資家の意識を変え、株主総会が活性化する契機になったと考えています」
個人投資家が株主としての権利を行使し、自分の声を届けることで、企業経営は健全化される。それが結果的に株価の上昇につながると松本氏は話す。
「印象的だったのは、今年6月の三菱UFJフィナンシャル・グループの株主総会会場前に環境活動家たちが集まり、環境に配慮した投融資を求めるプラカードを掲げたこと。国会や官邸の前ではなく、株主総会の会場前でこんな光景が見られるとは、私は正直しびれました。
この総会には、環境NGOに所属する個人投資家3人が、パリ協定に沿った定款変更などを求める株主提案を出していました。結果は否決されたものの、23%の賛同を得ました。1%や5%じゃない、23%ですよ。これは銀行にとって凄まじいインパクトです。
今回は否決されましたが、次は可決されるかもしれない。よって銀行としては、株主から定款変更までは求められずに済むように、先回りして脱炭素企業への積極融資やESG投資の拡大などを進めざるを得ないでしょう。
わずか3人の個人投資家の意見も、企業経営者は無視できない時代になった。そんなダイナミックな変化が日本でも起こっています。株主の意見が経営に反映されれば、変革が進んで企業価値も向上し、株価を上昇させることが可能です」
とはいえ、株価上昇を阻むリスク要因も気になるところだ。例えば、コロナ禍が収束に向かえばお金の供給量も減り、株価も頭打ちにならないのだろうか。
「もちろんいずれは、お金の供給量を減らす段階が来るでしょう。それでも市場にお金が溢れている状況は変わりません。それにワクチン接種が進んで感染状況が落ち着いたからと言って、急に政府が増税してお金を吸い取ることも考えにくい。
コロナ禍でも大企業の給与所得者の収入は変わらず、むしろ増えた業界もある一方で、コロナ禍で収入が激減した人たちもいる。
経済状況のばらつきが大きいうちは、国はまず困っている人たちを助けることを優先しなければいけない。よって当面はお金が余り続け、株価も相対的に高いままだと考えられます」
米国ではFRBが利上げの時期を前倒しするとの報道もある。これが日本の株価に与える影響はどうだろうか。
「米国が利上げするのは、インフレを抑制するためです。雇用や消費が急回復し、景気が良すぎるから金利を上げようかという話なのに、なぜ日本の株価が下がるという話になるのか。
日本人は米国が金利を上げると言っては心配し、米国の景気が悪くなって金利を下げるといっても心配する。どちらにしてもネガティブに受け取るんですね。もちろん米国の金利動向は日本の株式市場に影響を与えますが、それは日々の株価が多少ブレる程度の範囲であり、長期的なトレンドとは無関係です」
更新:12月04日 00:05