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迫りくる大経済圏時代 「PayPay」と「LINE」の2大スーパーアプリが共創するソフトバンク経済圏

2021年05月06日 公開
2023年02月21日 更新

八木典裕(ベイカレント・コンサルティング チーフエバンジェリスト)

PayPayを基軸に一気呵成に攻める

 PayPay株式会社はソフトバンク株式会社とヤフー株式会社の合弁会社として2018年6月に設立されたが、この時期は決済市場で新たなサービスが乱立しており、各社がしのぎを削っている状況にあった。

 この争いのなか、PayPayアプリはなんと2019年の1年間で、50回以上ものサービスアップデートを繰り返した。しかもほとんどがアプリの使い勝手に関わるUIのアップデートであり、その頻度は1週間に1回以上のペースであった。ライバル各社が年間を通して数回のUIアップデートであったことと比較すると、驚くべきハイペースである。

 デジタルサービスにおいてUI/UXの重要性が声高に叫ばれているが、PayPayはどのサービスよりも実践してきたということだ。これだけハイペースに機能強化や改善を繰り返せた理由は、開発の全てを内製化していることにある。PayPayは開発拠点を日本、インド、カナダにおいて、24時間体制で開発し続けるための環境を整えていたのだ。

図2:QRコード決済アプリのアップデート頻度(2019年)
ソフトバンク

 直近のソフトバンクグループの動きを見てみても、ソフトバンク経済圏が日本でいかに「PayPay」を軸としているかが理解できる。PayPayは、乱立するキャッシュレス業界で覇者になるために、これまで矢継ぎ早に施策を打ち出してきた。

 まず、決済においては「LINE Pay」を吸収することが発表されており、両サービスを合わせるとQRコード決済市場の約半分のシェアを締めることとなる。ライバルとなる他の通信キャリア「d払い」「楽天ペイ」「au PAY」はいずれも10%台に留まっているため、ソフトバンク経済圏がQRコード決済領域で主役になることはほぼ間違いないだろう。

 ただし、決済手段全体を俯瞰した時に、QRコード決済自体がスタンダードになる可能性は高くない。未だクレジットカードが主導権を握るなか、「楽天カード」や「楽天Edy」といった他の決済手段を擁する楽天経済圏は、やはり強力なライバルとして立ちはだかるであろう。

 そんな楽天のSPU(スーパーポイントアッププログラム)に対抗するかのように、2020年10月から「PayPayステップ」を開始した。これでソフトバンク経済圏も、サービスを使うほどオトクな仕組みを構築できる。

 今後、PayPayのポイントを中心に、生活者の消費行動をいかに取り込んでいくかが、重要な論点となっていくだろう。

 そのための布石として、2020年7月にZホールディングスは、既存の金融系サービスをPayPayブランドに統一し、更なる連携を図ることを発表した。クレジットカード、銀行、証券、保険、FX・外国為替、資産運用の6サービスが、”PayPay”の冠を付けたサービス名に生まれ変わることになる。日本国内において、”PayPay”でサービスブランドを拡充していく流れが、より一層進んでいくだろう。

ソフトバンク
Zホールディングス社プレスリリースより(https://www.z-holdings.co.jp/pr/press-release/2020/0731/)

 このように、PayPayは「勝つまで手を緩めない」という、ソフトバンクグループが時折見せる圧倒的な戦い方で施策を進めている。QRコード決済から始まったPayPayブランドは様々な金融サービスのラインナップを揃え、「PayPayモール」や「PayPayフリマ」のようなEコマースにも広がっている。この広がり方は、まさに経済圏の戦い方の王道である。

 ソフトバンク経済圏のなかで、独立性を持った「PayPay経済圏」が誕生しようとしている。独自にサービスを拡充している「LINE」もいるため、それぞれが経済圏を構築し、互いにシナジーを創出していくことが、ソフトバンク経済圏全体の強みとなっていくであろう。

「PayPay」と「LINE」の2大スーパーアプリが経済圏の根幹となっていく

 ソフトバンクグループは「情報革命で人々を幸せに」というフレーズに代表されるように、未来を見据えたビジョンを打ち出し、グローバルでの”群戦略”拡大を続けている。

ソフトバンク
ソフトバンクグループ決算説明会資料より抜粋

 そういう意味では、日本の経済圏構築は極めて重要とはいえ、全体の取り組みの一部に過ぎないという見かたもできるかもしれない。ただ、「PayPay」に徹底的に投資してきたこれまでの経緯と、「PayPay」を軸に進めようとしている現状の方針を踏まえると、これからも投資の手を緩めることはないと予想できる。

 まず当面は「PayPay」と、新たに仲間入りした「LINE」の双方が、スーパーアプリ化していく流れが進むだろう。

 スーパーアプリとは、「スマホアプリの中で他の様々なアプリを起動できるプラットフォームアプリ」のことを指す。用途に応じて個別アプリをダウンロードする必要がなく、スーパーアプリの中だけで完結できるため、生活に合わせて多種多様なサービスを提供できるようになっていく。経済圏プラットフォーマーとなるためには、スーパーアプリを整備していくことは不可欠ということもできるだろう。

 スーパーアプリが先行している中国では、WeChatやAlipayなど多くのプラットフォームが普及してきた。一方、日本の取り組みは遅れていたのだが、昨年あたりからスーパーアプリ化が加速しており、その代表格こそが「PayPay」と「LINE」なのである。

 両サービスはそれぞれの道でラインナップを拡充しつつ、疎結合で連携し合う構図となっていくだろう。例えばコロナ禍で市場を伸ばしたフードデリバリーを見てみると、PayPayが「Uber Eats」と連携しているのに対し、LINEは「出前館」と連携している。ソフトバンク経済圏としてはサービスを絞り込むのではなく、より拡充していく流れにあり、その結果としてフードデリバリーの2大巨頭を経済圏に迎え入れることができたというわけだ。

 そして、PayPayとLINEの”現状の”スーパーアプリを、アジアの代表的なスーパーアプリと比較してみると、既に見劣りしないほど充実したサービスラインナップを揃えていることがわかった。

 中国の「WeChat」、インドの「Paytm」、インドネシアの「Go-jek」という、いずれも各国を代表するスーパーアプリと比べてみたが、大きく欠けているサービスは見当たらず、日本人の生活スタイルに合わせて必要なサービスを整備している印象であった。

図3:スーパーアプリからアクセスできるサービス比較(2021年4月1日時点)
ソフトバンク

 楽天の場合、「楽天市場」「楽天カード」「楽天モバイル」という役割の違う3大キラーサービスが経済圏の入り口として機能していることを以前の記事で解説した(参考:https://shuchi.php.co.jp/the21/detail/8488)。

 一方でソフトバンク経済圏の場合は、「PayPay」と「LINE」の双方が様々な役割を担うスーパーアプリとして拡張していく流れになる。経済圏全体としては「ソフトバンク」「ヤフー」「PayPay」「LINE」といったビッグネームが共存していくことになるだろう。

 ブランドイメージを統一している楽天は、消費者自身が選択することによって経済圏ユーザーとなっていく。一方、各社にある程度任せながらも連携し合うソフトバンクは、消費者が気付いた時には経済圏にどっぷりと入り込んでいるのかもしれない。

 楽天とソフトバンクの経済圏は、それぞれ違うアプローチで拡充していくことになるが、個別サービスではシェアを奪い合っていくことになる。両者がどのように市場を形成していくのか、注目しながら一消費者としてサービスを使っていくと良いだろう。

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