2021年05月06日 公開
2023年02月21日 更新
今後、日本のコンシューマー市場を作り変えていくのは、海外企業ではなく、おそらく国産のディスラプターになるだろう。なぜならば、日本人特有の消費者心理や行動を熟知しているのは長年ビジネスを展開してきた日本企業だからであり、そんな日本人の様々なニーズに応えるサービスを提供するために欠かせない他企業との連携もやりやすいからである。
ベイカレントでは、その代表格として、通信キャリア(NTTドコモ、au、ソフトバンクに楽天を加えた4社)に注目しており、これからの大経済圏を席捲していく最有力候補と見ている。
本記事では4社のうちソフトバンクに焦点を当て、最近の取り組み内容からどのような経済圏を構築していくかを解説していく。
日本の消費者に寄り添うソフトバンク経済圏が大きく拡大しようとしている。これから経済圏を構築していくプラットフォーマーの中で、最強のポテンシャルを保持しているのがソフトバンクグループであり、その動向には常に注目が集まっている。
ソフトバンクは元来、インターネットとともに成長し、ブロードバンドのサービスを提供してきた企業であった。2006年にボーダフォンを買収し、通信キャリアとしての歩みを始めた当時は新参者という印象が強かったが、今では多くの人がソフトバンクのメインビジネスは通信キャリアだと認識している。それほどまでに、通信キャリアとしてシェアを獲得することは、世の中に対する影響が大きいということだ。
以前の記事でもお伝えしたことだが、やはりこれからの大経済圏を構築していく筆頭候補は通信キャリアといえるであろう(参考:https://shuchi.php.co.jp/the21/detail/8465)。
そして現在のソフトバンクは、ビジョンファンドとしての一面が大きく顔を出している。孫正義会長兼社長は”群戦略”と表現し、グローバルで多くの企業と手を組み、エコシステムを形成している。
ソフトバンクグループのHPより引用
独自の経済圏を構築している楽天は自社ブランドに統一する方針で進めているのに対し、ソフトバンク経済圏は他社を取り込む(冠を変える)のではなく、共存していくやり方を取っている。様々なブランドネームが共存するソフトバンク経済圏は、一体どのような未来を描き、消費者を取り込んでいくことになるのだろうか?
ヤフーを傘下に持つZホールディングス(ZHD)とLINEは、2021年3月1日に経営統合し、両社は新生ZHDの一員として協力し合う関係となった。日本人の生活に深く溶け込んだ2大ブランドが手を組むことは大きなインパクトをもたらすだろう。
こうしてLINEを取り込んだソフトバンクグループが創り上げていく経済圏は、ソフトバンク、ヤフー、LINEの3社のサービスが核となっていく。そして、ソフトバンクグループが投資する様々な企業のサービスを巻き込み、壮大なエコシステムを形成していくという流れになるだろう。
図1:ソフトバンク経済圏のサービス群
経済圏争いの主戦場がEコマースと決済領域から始まったことは以前の記事でもお伝えしたが(参考:https://shuchi.php.co.jp/the21/detail/8465)、この領域においてソフトバンク経済圏は、Yahoo!ショッピング、ヤフオク!、ヤフーカード等で一定のシェアを獲得してきた。しかし、楽天市場や楽天カードを擁する楽天経済圏の力は極めて強く、ソフトバンクはお世辞にも優勢であったとは言い難い。
だが、それでもソフトバンクは非常に高い潜在能力を持っており、経済圏プラットフォーマーとして唯一無二の存在となり得る。その理由として、ソフトバンクグループの持つ圧倒的な投資力に加えて、他社では真似できない2つの重要なアセットがあげられる。
1つ目は、ソフトバンクグループが持つ顧客接点力である。3大通信キャリアの一角を占めるソフトバンクは、ソフトバンクユーザーの持つスマホを介して毎日接点を持てている。
ヤフーに関しては、最新ニュースをYahoo!ニュースで閲覧する人が多い。「ニュースはヤフーで見ている」という人は、かなり多数いると思われる。そして近年、Yahoo!ニュースの対抗馬の地位を確立したLINEニュースも、同じ経済圏に属する共創サービスとなった。つまり、「時事ネタに触れるならソフトバンク経済圏」という構図が成立しているというわけだ。
更に、LINEは生活インフラとしての地位を確立している希少な存在である。日本人の利用率と利用時間ともに、ほぼ全てのサービスを圧倒するLINEは、最強の顧客接点力を持つアプリの一つといえるだろう。
次に2つ目のアセットは、ソフトバンクが世界中の大手デジタルサービスを事業投資先として抱えていることだ。例えば経済圏の主戦場となるEコマース、決済、ライフスタイルの領域を見てみると、Alibabaを始めとして、DiDi(中国/ライドシェア)、Grab(シンガポール/ライドシェア)、Paytm(インド/決済)等、枚挙にいとまがないほど海外の雄が並ぶ。
各国で高いシェアを獲得しているサービスのノウハウ・データ・システム等を横展開できることは大きい。実際、PayPayのシステムはPaytmをベースとして作られたのだが、これがPayPayのスピード感ある躍進に繋がったのであろう。
一方で、ソフトバンク経済圏の主な課題は、”経済圏インフラの作り方”にあるのではないだろうか。現状のソフトバンク経済圏は、各領域においてサービスが乱立している状態が目立つ。例えばポイントプログラムにおいては、Tポイント、PayPay系ポイント、LINE系ポイント等が共存している。楽天経済圏の場合は、どのサービスを使っても楽天ポイントが貯まるというわかりやすさがあるため、比較してみるとソフトバンク経済圏はサービスブランドが乱立していることがわかるだろう。
この背景には、”群戦略”において資本投下した企業のブランドを尊重するやり方がある。あえてソフトバンクの色を出し過ぎることは避けているようにも見える。現にヤフーとLINEの統合においても、ある程度各社に任せている様子が窺えた。
出資先のブランド棄損や投資機会/売却機会への悪影響といったリスクがあり得るため、どこまでソフトバンク色に塗り替えるかは難しいところだが、経済圏の結束を強めるためにサービス群の一体感は不可欠となる。柔軟なグループ経営を維持する”群戦略のあるべき姿”と、結束したサービス間がシナジーを創出する”経済圏のあるべき姿”を高次元で両立させるには、今後何をどこまで統一するかが難しいところである。
そこで、経済圏のサービスブランド確立に向けて重要な役割を担っていくのが「PayPay」ブランドではないかと思われる。
更新:10月09日 00:05