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周囲をイエスマンだらけに…失言・炎上を繰り返す「旧世代」の勘違い

2021年05月07日 公開
2023年02月21日 更新

モーリー・ロバートソン(国際ジャーナリスト)

モーリー・ロバートソン

正論で非難する人が持つ「欺瞞と無責任」

――このような強者がいる一方で、それに怒り、非難する人々もいる。この人々は果たして清廉潔白なのかというと、それもまた違うとモーリー氏は語る。

「森氏の話が出たところで、少々世代論について語りましょう。森氏は83歳、子供時代に終戦を迎えた世代です。壮絶な戦場は体験していないため、平和への希求といった哲学はない。あるとすれば闇市からの復興を通して体得した弱肉強食の論理――金と権力があれば得をする、という即物的な価値観でしょう。

その下の、現在70代になっている世代になると、今度は机上の理想論を語る傾向が出てきます。彼らの中には、アメリカの傀儡と化した日本、朝鮮戦争の前線基地を提供したことで豊かさを得た日本に怒る若者が大勢いました。が、彼らもその豊かさの果実を受け取っていたことに変わりはありません。その責任を棚上げして権力を非難しても、結局のところ、建前論やきれいごとに帰してしまいます」

――この類の正論も、うしろめたさを刺激されれば分が悪くなる。今日における保守とリベラル間の論争でも、その構図は続いている。

「米軍基地反対を唱えれば『でも今現在、あなたも米国に守られていますよね?』。反原発を叫べば『原発なしで電力供給できると思うの?』となるわけです。

ちなみに太陽光や風力などの新電力を使う人々はこの冬、電気料金が跳ね上がるという大変な経験をしました。悪天候で発電できず、しかもそれをまかなう火力発電では、燃料の輸入元である中国で供給が滞り、価格が高騰したのです。

さらに背景にあるのは、東日本大震災直後の脱原発の流れの中で、民主党政権が作った『固定価格買取制度』という新電力への補助金制度。これが東電をはじめとする電力会社の経営負担となり、電気代の一律値上げに至ったという事情もあります」

――10年前、脱原発へと一斉に流れた世論は、それが去ったあとにもひずみを残している。その場その場で「正しさ」を主張する人々が見過ごしやすい一面だ。

「正論を掲げて誰かを非難する人には、しばしば本人の責任意識や、リスクを負う覚悟が欠けています。そしてやはり、共感性が足りません。年齢を重ねて、違う価値観の持ち主を一切受けつけなくなってきたら要注意。自分もまた真っ白ではいられない、という認識が必要です」

 

居心地のいい同質集団を一歩踏み出してみよう

――怒らせる側と怒る側、それぞれの欺瞞をフラットに分析するモーリー氏は、自身の中にある欺瞞も率直に認める。

「私がコンビニのお弁当を食べるとします。そこには『技能実習生』という肩書で、劣悪な条件のもとに働く方々の労働や、環境に悪い素材の容器や、殺されて食材となった動物の存在がある。

人間は他の生命や環境に対して、何らかの加害をせずに生きることは不可能です。それを知っているから、自分が正しい・相手が悪いという構図に入り込まずに済みますし、共感力も働きやすいのだろうと思います」

――この姿勢には自身の生い立ちも関係していると語る。米国人を父に、日本人を母に持ち、子供時代はどこにいても異質な存在として見られてきたという。

「日本の学校ではアメリカ人として異端者扱いされ、アメリカでは東洋人差別も受けました。でもそのおかげで、様々な価値観を知ることができました。連帯感で閉じられた輪や、自分の正しさを盲目的に信じる人々が互いに非難し合う構図にも、目を向けることができたと思います」

――このような柔軟さや公平さ、そして共感力を持つには何が必要だろうか。

「『立ててくれる人たち』や、『一緒に誰かを非難する仲間』といった同質集団のコンフォートゾーンを一歩出て、違う意見や立場の人と接しましょう。ラクをしていると、精神が筋委縮して凝り固まったものになります。老化防止のためにも、外の世界の刺激を受けることをお勧めします」

 

自分が享受してきた「不公平な恩恵」に気づこう

――自分が強い立場にある、という自覚も必要だ。特段高い地位にいるわけでなくとも、40代・50代のビジネスパーソンは十分に恵まれた環境に身を置いている。

「若手社員とは給与も権限の範囲も段違いです。男性の方なら女性より過分に厚遇されてきたはず。自身の資質や能力とは関係なくもたらされた『不公平な恩恵』に気づいていれば、無神経なパワハラ・セクハラ上司にはならずに済みます」

――その自覚を持ったとき、共感と責任の意識が必然的に生まれる、と語るモーリー氏。

「不公平を意識すれば、人は自然に水平化を図ろうとするものです。立場の弱い人や少数派が不当な目に遭わないように計らえるようになるのです。世代的にはまだまだ、主張の強い女性に違和感を覚えることもあるでしょう。

LGBTの人々を理解できず戸惑うこともあるでしょう。しかし必要なのは、その違和感を超えて理解しようとする努力と能力です。強い立場にあるときほど、自分が弱者ならばどうかと想像する。それが心の弾力を維持する秘訣。次代の社会をよりよくすることにもひと役買えるでしょう」

 

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