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周囲をイエスマンだらけに…失言・炎上を繰り返す「旧世代」の勘違い

2021年05月07日 公開
2023年02月21日 更新

モーリー・ロバートソン(国際ジャーナリスト)

モーリー・ロバートソン

テレビやラジオで自身の意見を率直にぶつけながら、視聴者からの好感度も高い、国際ジャーナリストのモーリー・ロバートソン氏。同氏は、話をするときには、自分の考え方の偏りを自覚すること、相手の立場や価値観を多面的に捉えることが大切だと語る。詳しくうかがった。(取材・構成:林加愛)

※本稿は、『THE21』2021年6月号より一部抜粋・編集したものです。

 

周りがイエスマンだけでは会社がキャバクラに

――国際ジャーナリスト・ミュージシャンとして活躍し、メディアに登場する際は世の矛盾を鋭く一刀両断するモーリー・ロバートソン氏。その語り口は極めてストレートで、時に毒舌。しかしそれは逆に聞き手に痛快な気分をもたらし、高い好感度へとつながっている。巷をしばしば騒がせる「炎上」発言との違いは、どこにあるのだろうか。

「鍵となるのは『共感』だと思います。私が言いたいことを言っても叱られない――実はしばしば叱られてはいるのですが(笑)、最終的に不快感を与えずにいられる理由があるとしたら、話題の主やそこにかかわる人々、すべての立場を考えながら話しているからでしょう。

賛成・反対は別として、この人はこういう立場だからこう考えるのだ、と俯瞰的に考えていれば、人の気持ちを踏みにじるような失言には至らないものです」

――モーリー氏は現在58歳。この年齢に達すると「頭の固い旧世代」と化す人も少なからず出てくる。失言をしたり、パワハラやセクハラのそしりを受けたりすることが増えてくる時期とも言える。

「ビジネスパーソンの場合、立場が重くなっていることが共感力を衰えさせる一因になりそうです。立場の弱い人への想像が働かなくなるうえに、周りもイエスマンばかりで、間違いを指摘される機会がなくなるのもリスクですね」

――自分が周囲を従わせることができているのは「強者」の側にいるからだ、という自覚を持つべきだと語る。

「周囲が立ててくれるのは、飛ばされたり仕事を奪われたりするのが怖いからに過ぎません。それに気づかず気分よく過ごしているなら、会社にいながらキャバクラにいるようなもの(笑)。自分を盛り上げてくれる人だけを厚遇し、『同質集団』の中で安穏としているなら赤信号。あるとき境界線を踏み越えて、大炎上するかもしれませんよ」

 

「女性蔑視発言」の裏にあるうしろめたさの連帯感

――その最たる例が、「女性蔑視発言」で世を騒がせた森喜朗氏の一件だと語る。

「あの発言の根底にあるもの、それは男性優位という壮大な『ウソ』です。そもそもジェンダー差別はマイノリティ差別ではありません。人口比で言えば女性のほうがわずかに多いからです。ではなぜ男性が支配的立場にいたのか。

それは太古において、男性が体力を駆使して食糧を獲得し、戦闘力で食糧備蓄を守ったからです。そして、女性は弱くあるべき、男に従うべき、子を産み育てるべき、という役割に押し込んだ。この雑な決めつけが、現代まで綿々と継承されているわけです」

――旧態依然とした価値観を露呈した森氏はいささか脇が甘かった、と語るモーリー氏だが、同時にこの発言は極めて巧妙でもあるという。

「彼は発言しながら『こんなことを言ってはいけないのだが……』というニュアンスも含ませていましたね。これはいわゆる『男の本音』を、わかり合える人たちとの間だけで共有し、連帯感を醸成しようとするアプローチです。言わば、『うしろめたさの連帯感』。

旧世代の男性の多くが隠し持つ『男の権力を維持したい』という本音を掬い上げる、あえて不適切な言葉を発することで『あなたもそうでしょう?』と共犯関係の輪を作る。彼は数々の組織でリーダーを務めていた間、このテクニックを大いに駆使して場をまとめてきたのでしょう。

図星を突かれた側は自らも脛に傷持つ身とあって、何においても反論は言いづらくなります。また、彼に追従することで得られる恩恵もあるでしょう。彼が調整役として優れていたと言われるのも、この力によるところが大きかったと思われます」

――会社組織の中でも、立場の強い人々や保守的な考えを持つ人々は、この手法を無自覚に駆使しやすいという。

「うしろめたさの連帯感を使って同質集団を囲い込むのは前述の『キャバクラ型』によくある行動。しかし森氏のケースで女性が貶められたように、その輪を作るときにはたいてい、誰かをはじいたり、傷つけたりしているものなのです」

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