会社員にとって定年とは、毎月、会社から給料がもらえる生活が終わるということでもある。定年後のお金の心配がまったくない、という人はごく少数だろう。では、今から何をどう備えるべきか? シニア層向けライフプランの専門家・大江英樹氏に話を聞いた。(取材・構成:長谷川敦)
※本稿は月刊誌『THE21』3月号より一部抜粋・編集したものです。
50歳と言えば、ちょうど老後のお金のことが気になり始める年齢だと思います。
「老後もちゃんと生活していけるのだろうか」「老後破産してしまうことはないだろうか」。そんな不安を漠然と抱いている方も多いことでしょう。
結論から言えば、一般的な会社員であれば、「WPP」さえ押さえておけば、老後破産するようなことはまずありません。
WPPとは、Work longer(できるだけ長く働く)、Public Pension(公的年金)、Private Pension(個人で準備する貯蓄や投資などの備え)の頭文字を取ったものです。
なぜ皆さんが老後のお金をそんなに心配するのかと言えば、WPPの中でも、とりわけ公的年金に対する信頼感が低いからだと思います。
確かに、メディアが「公的年金制度は破綻の危機にある。だから当てにできない」などと言っているのを見聞きすれば、不安を持ってしまうのも無理はありません。
しかし、事実はまったく異なります。公的年金制度は、破綻の危機にあるどころか、万全です。
2004年、国は将来にわたって公的年金制度を維持していくための大改革を行ないました。具体的には、それまで年金支給額を固定し、それに合わせて保険料の金額を決めていたのを、逆に保険料を一定額に固定し、それに合わせて年金支給額を決めていく方式に変えました。
つまり、負担と給付の公平化を行なったのです。そして、これによって今後の年金支給額が大きく減らないよう、現在では約200兆円ある年金積立金も取り崩しながら活用し、現役時代の所得の一定割合を確保できるようにしました。
読者の中には、この積立金についても、「運用に失敗ばかりしていて、どんどん減っている」と思っている方がいるかもしれません。
しかし実際には、リーマンショックのときなど、短期的には大幅な損失が発生することもありますが、中長期的には黒字です。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が運用している積立金の規模は、この10年間(10年度末~19年度)で約122兆円から約158兆円に増えています。
そもそも、年金の支給の大部分は、現役世代から集めた保険料と税金で賄われており、積立金から年金が支給されているわけではありません。ですから、積立金の運用の失敗が原因で公的年金制度が崩壊するという事態は、ほぼ考えられないと言っていいでしょう。
老後にもらえる年金の受給額は、現役時代の年収や加入期間によって変わってきます。
夫が平均550万円の年収で40年間働き、妻が専業主婦という場合、夫婦二人に支給される年金額は月額で22万円程度です。子供の教育費や住宅ローンの支払いを終えている夫婦二人の家庭であれば、この22万円だけでも十分生活していけると思います。
「もう少し余裕のある暮らしがしたい」と言うのであれば、一番良いのは、WPPのW、「できる限り長く働く」ことです。
長く働くことのメリットは、単に月々の収入が増えるだけではありません。
公的年金の支給は65歳からとなっていますが、最長70歳まで受給開始を繰り下げることができます。受給開始を1カ月遅らせるごとに、受給額は0.7%アップします。
仮に70歳まで現役で働き続けて、そこから年金生活に入るとすると、65歳から受け取ったときと比べて、受取額が42%もアップします。65歳時の年金の受給額が22万円の人が、70歳まで受け取りを遅らせれば、31万円にまで増えるわけです。
さらに、22年4月からは、75歳まで受給開始を遅らせられるようになります。75歳から受給すれば、月々の受給額は40万円にまで増えます。年収に換算すれば480万円です。
これだけの金額が死ぬまで受け取れるわけですから、「長生きをしすぎて破産する」という老後リスクの心配はまずありません。
更新:10月06日 00:05