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社を挙げて「転売ヤー」になる愚…バブル世代のおじさんに注意せよ?

2021年03月01日 公開
2023年02月21日 更新

小阪裕司(オラクルひと・しくみ研究所代表)

アマゾン

アマゾンに勝つ方法はあるが……

あるいは、潤沢な資金と優れたシステム、そして豊富な人材がいる会社なら、マスを狙ってもいいだろう。そういう会社の代表がアマゾンだ。アマゾンが行っているのは、超巨大規模でのITを駆使したマーケティングだ。

まず、そもそも日々アマゾンで買い物をしている人の数がすさまじい。そんな日々の大量の購買履歴から、どんな商品にニーズがありそうかを予測して、提供し、仮説検証のサイクルを回していく。

そのサンプル数は億単位になる。数百人のサンプリングにより商品開発や販売促進を行う企業とは、文字通りケタが違う。

また、そのデータは個々のユーザーにもフィードバックされていく。自分の購入履歴やチェックした商品を踏まえてなかなかによく考えた(考えているのはAIだが)商品を推奨してくることに、もう慣れてしまい、むしろ便利に思っているユーザーは少なくないだろう。

そんなアマゾンに、あなたの会社は勝てるのか、という話である。アマゾンに対抗するためには、少なくともアマゾン並みのIT投資が必要になる。そんな資金と覚悟があるのなら、アマゾンに真っ向勝負を挑めばいい。

しかし、そんな企業がどれだけあるかといえば、おそらく全企業の0.1%にも満たないだろう。一昔前は「アマゾンにどう対抗するか」という話があったが、もはやその問い自体がナンセンスだ。

アマゾンはすでに生活のインフラになっている。アマゾンと対抗するのは他の巨大IT企業や、アリババなど中国の巨大ネット企業に任せておけばいい。むしろ我々が考えるべきは、それを利用するか、そことはまったく別の領域で生きるかだ。

 

『鬼滅の刃』の不思議─なぜ「クセが強い」作品がヒットしたのか

さてここで、もう一つの2020年の大ヒットの話をしたい。『鬼滅の刃』だ。ご存じの方も多いと思うが、改めて説明しよう。『鬼滅の刃』とは吾峠呼世晴氏による大正時代を舞台にした漫画であり、2016年より『週刊少年ジャンプ』にて連載を開始。

2019年にアニメ化されると一気にブレイクし、さらに2020年10月に公開された映画は興行収入300億円を突破と、これまでの日本映画の興行収入記録を塗り替えるほどの大ヒットとなった。

『鬼滅の刃』は主題歌のヒットやアマゾンプライムでの無料配信、各種商品とのコラボなど、さまざまなマーケティング施策を行っている。まさに「従来型のマス・マーケティングの勝利」のように思うかもしれないが、私はそうではないと考えている。

かつてのマス商品というのは、たとえば自動車がそうだし、さらに古い時代までさかのぼれば「ダッコちゃん」や「フラフープ」といったようなブームを巻き起こした商品もそれにあたるだろう。

人々がそれらを求めた要因は「周りの人が持っていたから」、あるいは「ないと不便だから」であり、誰からも愛される商品、誰にとっても使いやすい商品こそが、大ヒットの条件だった。

一方、『鬼滅の刃』は、かなりクセの強い作品だ。読んでみればわかるが、暴力的なシーンやグロテスクな描写も多く、決して万人受けする作風ではない。しかし、その個性の強さこそが、一部の熱狂的なファンを生み出した。

熱狂的なファンたちと、その人たちが作り出す世界のことを「ファンダム」と呼ぶが、『鬼滅の刃』のヒットの核にはこの「ファンダム」があった。

そして、そのファンダムの世界観を大切にしつつマスに広げていくマーケティングを行ったからこそ、あれだけの大ヒットになったというのが、私の分析だ。

ちなみに、『鬼滅の刃』に抜かれるまで日本映画の興行収入記録を持っていたのは、宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』だったが、あれも今思えば、かなりクセの強い作品だった。「ファンダムをコアとした大ヒット」の先駆けだったのかもしれない。

 

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