2020年08月31日 公開
2023年02月21日 更新
日本人の多くが抱いている「英語コンプレックス」。ただ、長年外資系企業にて活躍してきた藤巻健史氏は、「英語をそれほど恐れる必要はない」と主張する。コロナショック後もその重要性は変わらないと思われる英語と、どのように付き合うべきか。近著『コロナショック&Xデーを生き抜くお金の守り方』において、お金の話だけでなく、自分の能力を高める必要性とその方法を説く藤巻氏に、詳しくうかがった。
*本稿は、『コロナショック&Xデーを生き抜くお金の守り方』(PHPビジネス新書)の内容を抜粋・編集したものです(写真撮影:長谷川博一)。
日本人にとって、「英語」は一種の鬼門と言えそうです。ただ、海外に飛び出そうが国内にいようが、外国人と一緒に働くことが当たり前になる時代。やはり、英語の習得は不可欠と言わざるを得ないでしょう。
多くの日本人は「まずはしっかりした英語を身につけなければ、外国人と一緒には働けない」と考えると思います。もちろん、英語を学ぶに越したことはないのですが、「英語が苦手でも、とりあえず飛び込んでみればなんとかなる」というのが、やはり英語が苦手だった(今でも苦手ですが)私の結論です。
「2年間ビジネススクールに留学、3年半ロンドン支店勤務、15年間外銀勤務、うち最後の5年間は外銀東京支店長で部下の外国人多数」というのが私の経歴なのですが、実際に私の英語を聞いた人は、とてもこの経歴を信じてくれません。
そのことを如実に示すエピソードがあります。
以前、NHKで放映されていた『英語でしゃべらナイト』という英語番組に出演した際のことです。これはタレントのパトリック・ハーランさん(パックン)を中心に、毎回ゲストを呼んで英語でトークをするという番組です。
スタジオにて収録を行う際、ディレクターの人から「パックンが最初に、二言、三言英語で聞きます。その後、この人は英語ができるなと思ったら、30分間ずっと英語で話しますので、よろしくお願いします」と言われました。テープが回り始めて、二言、三言、パックンがしゃべって、私が英語で答えました。その後30分、後はずっと日本語でした。
こんな有り様にもかかわらず、なぜか2回目の出演依頼がありました。今度は自宅にパックンや撮影スタッフが来て撮影を行ったのですが、不思議に思った妻がアシスタントディレクターの若い女性に「1回目であんなに英語が下手なことがわかったのに、どうしてまたいらしたんですか」と聞くと、「藤巻さんは、一応インターナショナルの世界で成功した方ですけど、藤巻さんの英語を聞くと、視聴者がみんな、私の英語でもインターナショナルの世界で働けると自信を持つんですよ」と答えたそうです。そんなにはっきりと言わなくてもいいのに、と思いましたが(苦笑)。
ともあれ、私の英語力はそんなものだということです。
そんな筋金入りの英語下手の私ですが、三井信託銀行のロンドン支店駐在時代も、モルガン銀行時代も、英語で問題なく仕事をこなしていました。
その理由の一つは、ビジネス上の会話は基本的に、テクニカルターム(専門用語)さえ知っていれば成立するからです。これは、どんな業界でも同じだと思います。
普段、仕事で使う言葉は限られています。私の場合、ディーリングに関する用語や言い回しさえ理解していれば、仕事は十分回るのです。むしろ、どんな話題が出てくるかわからない雑談のほうがよっぽど難しい。私は今でも英語の雑談は本当に苦手です。
用語は理解できても、怖いのは言い間違いや聞き間違いです。為替や米国債、金利スワップのような金利商品などの取引をするディーリングの世界は、100億単位の大きな金額が飛び交いますから、1ケタでも数字を間違えたら大失敗につながる可能性があります。
だからこそ、業界ならではのテクニカルタームが用意されていて、たとえ英語が苦手な人でも大きなミスが起きないような工夫がされています。
例えば、英語の「50(フィフティ)」と「15 (フィフティーン)」はネイティブでも聞き取りづらい単語ですが、ディーリングの際には、50(フィフティ)のことを「ファイブ・ゼロ」、15(フィフティーン)を「ワン・ファイブ」と言い直したりします。「フィフティーン、ワン・ファイブ」と2回言い直したりすることで、間違いを防ぐのです。
こういったテクニカルタームは他にもいろいろとあり、例えば銀行間での資金の貸し借りの取引をする時、「貸し手レートが16分の7で、借り手レートが16分の5」というのを、「セブン、ファイブ」と分子のほうだけ言ったり、10億ドルのことを「1ヤード」と言ったりします。どれも慣れてしまえば、かえってわかりやすいものです。
こうした用語を理解していれば、後は最低限の英語知識で、業界人同士の会話は成り立つのです。
これは、おそらくどんな業界でも同じです。まずは自分の業界のテクニカルタームと、頻出する言い回しを覚え込んでしまえば、英語での仕事は意外と回るのです。
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更新:12月02日 00:05