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原宿・竹下通りの女子高生がいまだにCDを買う意外な理由

2020年05月14日 公開
2023年02月21日 更新

佐々木康裕(Takramディレクター&ビジネスデザイナー)

 

ビジネスで勝つには「自分しか知らない情報」が最大の武器

ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・M・クリステンセン教授の著書『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン)には、受動データと能動データの話が出てきます。

能動データとは、誰でも簡単に手に入るデータのこと。

30代の男性はニュースアプリを見ている、保育園の待機児童の数は何人、 60代男性の何割で貯金がいくらあるといった、探せばすぐに誰でも見つけられるデータがこれに該当します。

対して、自分から居場所を言いふらしたりしない、つまり自分から掘り起こしに行かないと見つけられないデータを受動データと呼んでいます。

受動と能動という言葉の使い方が独特ではあるのですが、この本では能動データに惑わされてはいけないと説いています。

ところが、イノベーティブな製品がローンチされると、今度は売り上げや顧客数、コストといった、重要だと自ら主張していそうな能動的なデータが社内を支配します。能動的なデータは客観性があり、数値の精緻さに信用したくもなりますが、それに固執すると、「もっとコストを抑えないと」「競合より安くしよう」と数字に振り回されるようになります。そうなるとイノベーションは崩壊する、とクリステンセン教授は主張しています。

多くの人は能動データを正しいと信じて、それを判断軸に据える傾向があります。しかし、それは量的分析にすぎないので、競合他社との差別化を図れません。

受動データを上手に集めて、編集して、分析できる企業が、これからは競争優位を築いていきます。

ビジネスの競争で勝つには、「自分しか知らない情報」が最大の武器になります。

そのためにはデザインリサーチを利用して、質的な分析をするのが第一歩です。

デザインリサーチは 20~30年ぐらい前からデザインファームで用いられている手法です。

海外のデザインファームではリサーチは調査会社やマーケティング会社が行うのではなく、文化人類学者や社会科学者、ブランド戦略家、ジャーナリスト、写真家など、多様な職種の方が担っています。

対象者の発言だけではなく、行動も観察して、本人も気づいていないようなニーズや習慣を探る。データではなく、ストーリーを集めて新たな発見を導き出すのが、デザインスクール流のインプットです

 

人はバイアスに囚われていることを前提に考える

デザインスクールで学んだのは、人はバイアスから逃れることはできず、リサーチをしている自分自身、そしてリサーチ対象者がどのようなバイアスにとらわれながら生活し、日々の意思決定をしているのかを把握することが重要ということです。

行動経済学の大家であるダニエル・カーネマンは、人の脳は2つの思考モードに分かれていると説いています。システム1とシステム2です。

システム1は、極めて直感的、動物的に物事を高速で判断する思考であり、システム2は理性的、かつ論理的に時間をかけて判断する思考を指します。

彼によると、システム1抜きに、システム2だけを駆動させることは、極めて難しいといいます。

あらゆる事実やあらゆる現象は、まずシステム1が処理するので、そこで思い込みが生じることもあります。人は皆バイアスに左右されるものなのだという前提で物事を考えるべきだというのが、行動経済学の基礎です。

 

「経済的にアーティストを助けたい」。女子高生の意外な心理

以前、若者がどんなふうに音楽を聴いているのかをリサーチしたことがあります。若手社員に、原宿の竹下通りに行ってもらって、女子高生をつかまえてインタビューをしていました。

このときは、「若い人はCDを買わないだろう」と考え、どのようにストリーミングサービスや動画配信サービスを使って音楽を聴いているか、という観点でリサーチをしていましたが、意外な結果になりました。

私も他の社員も、今の若者はYouTubeで無料で聞いているか、音楽を一曲ずつiTunesでダウンロードしているのだろうと思っていました。

ところが、「タワーレコードでCDを買っている」と答える女子高生が何人かいることが分かったのです。なぜわざわざCDを買うのかを尋ねると、「経済的に一番アーティストを助けるのがアルバムを買うことだから」という回答。

今はTwitterやInstagramなどで情報発信しているミュージシャンは多いので、そこでファンとダイレクトに交流できます。

また、昔はテレビの音楽番組かライブでしか見られない遠い存在でしたが、「今日は、ここで焼きそばを食べました」とプライベートの情報を見たりしていると、親近感がわいてきます。そのコメントに「いいね!」を押すと、心理的つながりが生まれやすくなります。

このように、ミュージシャンとリスナーの距離が縮まっているので、「CDが出たから皆、聴いてね」と言われたら、無料のYouTubeで聴こうとは思わないわけです。心理的つながりをベースにした関係性があるため、お小遣いを貯めてCDを買って応援してあげようという気になるのだと分かりました。

こうしたインサイトやストーリーは、いくらデータを眺めても分かりません。

そして、数字だけではなく集めたストーリーを基に新たな仮説を構築していけば、これまでにない形でサービスやプロダクトの方針の検討をすることができます。

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