2019年12月25日 公開
2023年10月24日 更新
「好きなこと」「やりたいこと」を仕事にする働き方が注目されている。でも、夢がない、明確なキャリア目標もない。そんな自分はダメ人間なのか――? 天才でもナンバーワンでもオンリーワンでもない、フツーの人が直面する仕事の迷いについて、「好き嫌いの仕事論」を重視している一橋ビジネススクール教授の楠木建氏と、Yahoo!アカデミア学長として次世代リーダーの育成を行ない、新刊『やりたいことなんて、なくていい』を上梓した伊藤羊一氏にお話しいただいた。
取材構成 野牧 峻
伊藤 楠木さんの前回のお話しにしても、『好きなようにしてください』にしても、「何が正しいか」っていう判断基準じゃないよということで。かといってそれは『勝手にしやがれ』と突き放しているわけではなくて、自分の信念や価値観に従って決断しようというエールを感じます。
楠木 そう、ご自身で好きなようにしてください、自分の価値基準に従って生きてくださいということなんです。
それも先ほどから言っている事後性の問題に帰結します。第1回でもお話しましたが、多くの方はあまりにも、成功までのタイムラグを短く考えているんじゃないかなと思うんですよ。こういうアクションをとると、こうだからうまくいく。こういうアクションをとると、こうだからうまくいかない。じゃあ、どうやったらうまくいくだろうというのを、ものすごい短い時間の幅の中で考えている。そこに無理があります。仮に好きなことを仕事にしても、大体のことはそんなにパパッとうまくいくもんじゃない。やっているけどそんなに成果が出ないっていうのが普通。
結局、そのプロセスをどう耐えるのかが、重要な問題になります。それに対するもっともストレートな答えが、好きだったらそんなに辛くないと。だから、好きっていうのは、非常にダウンサイドに強いわけですよね。人から思ったように評価されないとか、思ったようにうまくいかない状態が続いても、そのプロセスを楽しんだり、それが何かのやりがい、生きがいになっていれば、だんだん、だんだん積み重なってそれがいつか花開くっていう。
でも、それも結局「振り返ってみてわかった」ということなんです。これが事後性ですね。多くの人がちょっと急ぎすぎなんじゃないかなっていうふうに思うんですよね。
伊藤 そう、だから結局、経験を積まないことには、これは本当に今後10年やれる仕事なのか、本当に好きな仕事なのか、まったくわからない。やっているうちに、好き嫌いっていうのも、よりハッキリしてくるし。進んでいるうちにハッと振り返って『思えば遠くへ来たもんだ』からの未来が見えるっていう。だから、自分の好き嫌いを今すぐわからなくていいし、そこに時間をかけることを怖がらなくていい。
楠木 そう思います。だから、さっき私がお話した、アカデミックなフォーマットでの成果を求めないっていうと、学者としては売上げゼロ・業績ゼロのお店みたいな感じで心配されるんですけど、それが苦にならないのは時間をかけて自分の好き嫌いの軸をハッキリさせたからなんですよね。
次のページ
ダメなとき、必要以上に自分を追い込んではいけない >
更新:11月22日 00:05