2019年12月23日 公開
2023年10月24日 更新
伊藤 ご存じの通り、震災時は日本全国の物流がどこもガタガタでした。命にかかわらない文具だけなら最悪遅れてもいいんですけど、台車、ゴム長靴、消毒液、飲料、電池、コンロみたいな必需品が順調に入荷されない。そして、入荷されたらどこへ優先して送るべきか判断しなくてはならない。普通に考えたら、注文順に届けなくてはいけないですよね。ただ、それって正しいけど本当にいいのかって。「全国一律大切なお客様だし、どこも困ってるんだから注文順だろ」って思うけど、一方で「本当に必要としてるのは東北だろ」とも思う。けど、どっちか決めなきゃいけない状況で、ここで初めて、好きなようにとか、嫌いなことっていうのを、仕事に活かすんだっていうことを知って。恥ずかしながら、40歳を超えてからなんですね。
楠木 今のお話をうかがっていて思うのは、良いことと悪いことの選択であれば、それは良いことを選べばいいに決まってます。あっさり言えば、判断不要、選択無用っていうことなんです。
ところが、重要なことのほとんどは良いことと良いことの間の選択です。それは良し悪しの基準では選べない。ここで好き嫌いっていうのが出てくると思うんですよね。
伊藤 いや、おっしゃるとおり。
――そこで初めて判断軸が初めて出てくるということですね。
楠木 ええ。好き嫌いというのは、その人固有の価値基準ですね。そこに世の中で普遍的なコンセンサスは成立してない。「時間に遅れちゃいけません」というのはコンセンサスが成立している価値基準なので「良し悪し」ですけど、「私は天丼が好きです。いや、僕はカツ丼です」というのは、コンセンサスがない。そういう価値観を好き嫌いと言ってるわけで。実際は、ほとんどがそうだと思うんですよね。重要な判断では特に。
伊藤 震災の出来事を人に話す中で、リーダーの仕事は決めることだと気づきました。決めるときに多数決では決められないよねと。だって、8対2で、リーダーの自分は2のほうかもしれないし。あと、プロコン(メリット・デメリットを列挙してより適切な選択をするために行なう分析手法)を書いて決められるんなら、もうリーダーはいらないよねって。リーダーは、何にしたがって意思決定するのかっていうと、やっぱり自分の信念とか使命感とか、譲れない想い。結局それは、自分の価値観で、価値観っていうのは好き嫌いだっていう話です。
楠木 言われてみれば、誰もが身に覚えのある話だと思うんです。ただ、世の中は今、良し悪しを基準にああだこうだ言うことがとにかく多いので。なにかあると、それが正しいかどうかとか、私がやろうとしているこれは正しいのだろうかって考えちゃう人が多いんですね。
次回は12月25日更新です。
更新:11月25日 00:05