2019年12月18日 公開
2023年10月24日 更新
楠木 例えば、組織の中で働きたくない。理由は2つあります。自分の具体的な経験でつくづく思い知らされたことがありました。
1つは、チームワークっていうのが、ことごとくダメ。子どもの頃からの学生生活で、なんとなくわかっていました。2つ目は、自分の仕事の評価主体が組織の中にあって欲しくないということです。会社に入ると、直接評価する人が上司になったりしますでしょう。そうではなくて、できたら外部の顧客からの直接評価にさらされるような仕事をしたいと考えていました。
この2つが重なったところに、あまり「会社」には入らないほうがいいんじゃないかという結論が出たわけです。
だからといって、当時は、もう本当に子どもなんで、「じゃあ、どうするんだ」というとですね、個人商店とかぐらいしか思いつかないわけです。具体的な解として。今の若い人みたいに起業するなんていう発想は、まったくありませんでした。また、そういうタイプでもないので。とにかく根性がない。これはもう、子どもの頃から繰り返し、嫌というほど思い知らされた。
ということで、やりたくないことはなんとなくわかったと。じゃあ、どうするんだというと、何もしない。卒業しても、何もしてなかった。就職もせずに。
ある方から「学者になれば、まあまあ、君が言ってるような、嫌なことは回避できるのではないか」とアドバイスをいただきました。ただし、それが好きかどうかは別として、です。「思いもよらなかった人生のオプション」として大学院に行きました。
つまりですね、ものすごく「形から入っている」んですよ。学問的な使命感とかそういうのは一切ありませんでした。「こういうことを研究したい」っていうのがなかったのです。
今の私の仕事ですと、一応大学という組織の中にはいます。とはいえ、上司から評価されるような仕事ではなくて。授業をやったり本を書いたりして、それを受講したり読んだりしていただいた方から、良いだの悪いだの評価をいただく。会社のお手伝いをするにしてもそうです。加えて、子どもの頃から読んだり考えたりするのが結構好きだったんですね。さらに言えば、発表するっていうのが好きなんですよ。
伊藤 それはあれですか、バンドやっていた経験とか?
楠木 それもそうですよ。バンドもそうです。もっと前だと、本みたいのを自分で書いたりして。誰も読まないんですけど(笑)。
伊藤 それは、今のお仕事につながってますね。
楠木 思考の一つの本質は言語化ですよね。人に伝えるような形で言語化するっていうことが好きなんです。ですから、もちろんそれが具体的にどういう研究をするかということではありませんでしたが、「まあ、いいのかな」というふうに思って。よく「おまえには使命感がない!」とか言われながら、大学院に行ってました。でも、本当にないんで、ないものは仕方がない。
――それを包み隠さず……。
楠木 ええ。それで、何年か経ったらですね、大学に職を得ることができて。そのときは、「シメシメ……」と。まさに嫌なことを回避し、まあまあ好きな、ゆっくり勉強でもして、何か考えて、何か書いたりっていうことを始めたんですけれども。もちろん、そんなにうまい話はなくてですね。気づいてみると、非常によくない状態になっていました……。
次回は12月20日更新です。
更新:11月22日 00:05