2019年12月13日 公開
2023年02月24日 更新
写真撮影:永井 浩
金融、物流、マーケティング、さらには教育と、まったく異なる分野でキャリアを重ね、グロービス経営大学院客員教授として教壇にも立つ伊藤羊一氏。著書『1分で話せ』は35万部のベストセラーになった。そんな伊藤氏は、志や信念を持つことで人生は大きく変わると話す。
※本稿は、伊藤羊一著『やりたいことなんて、なくていい。』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
私は30年くらい働く中で、最初の10年より次の10年、それよりさらに直近の10年で、どんどん、キャリアに影響を与えるようなイベントが増えていき、「わらしべ長者」のようなキャリアを辿ってきました。
その中で、ようやく私も「志ってこういうことなのかな」と思えるようなものも少しずつ見えてきました。と同時に、信念や志を持つことで、これほどまでに自分の人生は変わるのかと驚きました。
私がプラスからヤフーへ転職したのは、2015年のこと。
東日本大震災のあった2011年以降、私はプラスで新規事業立ち上げや、カンパニーの経営に携わっていました。
大きな被害を受けた東北地方でも復旧・復興が進み、業績も順調に伸びていきました。
2012年にカンパニーのヴァイスプレジデントになった私は「プラスの事業を通じて世の中に貢献していくことが自分の仕事だ」と考えていました。
それが、ヤフーに転職することになったのは、ヤフー前社長、宮坂学氏の「ヤフーでリーダー開発をやってくれないか」という誘いがあったからです。
私はプラスに転職して間もない時期から、グロービス経営大学院に通っていました。
ちょうど、銀行からメーカーへと仕事の場を移し、未経験の物流を扱って苦労していた頃。そこでやっていることは意味不明で、理解するのに時間がかかる。
「自分は理解するのに、なんでこんなに時間がかかるんだろう」と悩んでいました。
そんな悩みを抱えていたとき、この話を聞いたある友人が「伊藤さん、それならグロービスですよ」「考える訓練をしたらいいんじゃないですか」とすすめてくれたのです。
よし、じゃあ論理的思考力を養ったり、マーケティングなどのスキルを一から勉強してみようじゃないか─―というので、仕事をしながらグロービスで学び始めたのです。
そして、卒業後は、ある意味自分が学んできた場所への「恩返し」のような想いもあり、グロービスの教員を務めるようにもなりました。プラスで経営に携わるようになったこともあり、リーダーシップ開発のプログラムを担当するようになったのです。
これがリーダーシップ開発に関わることになった最初のきっかけです。
一方で、それまでの数年の間に、ヤフーやソフトバンクとの縁もつながっていました。
もともと、私にとってヤフーは憧れの企業です。1996年4月、Yahoo! JAPANがオープンしたその日にアクセスした記憶は今でも鮮明です。
今でこそインターネットサービスを提供する会社はたくさんありますが、私にとって、インターネットといえばヤフーのことであり、常に最初に想起する会社でした。
また、2011年からは、ソフトバンクグループを担う後継者の発掘、育成を目指すソフトバンクアカデミアに入って、孫正義校長の前でプレゼンをする機会にも恵まれました。
ソフトバンクアカデミアでは、経営やリーダーシップに関する様々なテーマが与えられます。参加者はプレゼンの質を競い合い、予選を勝ち上がっていくと、孫正義校長に直接プレゼンをすることができるのです。
ありがたいことに、私は何度か孫さんの前でプレゼンをすることができ、さらには年間成績で1位という評価もいただくことができました。
このとき、受賞者としてのスピーチで、
「私もいつかは、ソフトバンクグループで、孫さんの元で働きますが……」
と軽い気持ちで言ったら、孫さんが思いのほか喜んでくれたように見えました。
私としては、「あ、言っちゃった」という感じです。
それでも、孫さんの反応を見て、いつかソフトバンクグループにジョインするんだろうな……という思いが芽生えました。
私が宮坂学氏と知り合ったのは、ちょうどこの時期、つまりソフトバンクアカデミアに参加していた頃でした。
私がしたEコマースについてのプレゼンテーションを聞いた方が、当時Yahoo!ショッピングの責任者だった宮坂氏に「会ってみてほしい」と紹介してくれたのです。
間もなく、ちょうどヤフーの経営陣が交代し、宮坂氏が社長となりました。ヤフーはスマホ化への大構造改革を進めていた時期でもあり、私はその様子を、間近で見ていたわけです。
ヤフーという日本を代表するインターネット企業で、目の前の仲間たちが今まさに革命を起こしている。それを見ながら、「自分は対岸の火事のように見ているだけでいいのか?」「自分が貢献できることがあるとしたら何だろう?」といった思いが、少しずつ募っていきました。
そんな中で、2014年の夏、宮坂氏と人事の責任者だった本間浩輔氏から「羊一さん、Yahoo!アカデミアというのをつくったから、そこの責任者をやってくれないか」と誘われました。
そのとき、私はプラスに所属し、カンパニーのヴァイスプレジデントとして、事業全体を統括しており、おいそれと引き受けるわけにはいかず、最初は断っていました。
しかし、彼らの話を聞いて、こういう同世代の仲間たちの企てに参加するのは純粋に楽しそうだな、と思い、まったく新しいチャレンジも楽しいかも、と思うようになりました。
Yahoo!アカデミアは、リーダーシップ開発を目的とした企業内大学です。
リーダーを育成する組織で社内大学の仕組みやプログラムを企画することなど、今まで考えたこともありませんでした。ただ、日本を代表するインターネット企業の1つであるヤフーで、多くの役員候補、次世代リーダー候補に触れ、そのリーダーシップを育成するきっかけをつくれるなんて経験は、すごく貴重だなと思いました。
私自身は、グロービスで教鞭を取り始めたとはいえ、そもそも教育の世界では素人です。本業としてやっていくことに不安はあったものの、最後は、新しいチャレンジをすることを取りました。
これは、「人は変われる」という信念を明確に意識しての行動ではありませんでした。
ある意味気軽に、「じゃあ行ってみよう」という気持ちでした。
しかし、今振り返ると、この決断は自分の人生をガラリと変える選択でした。
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「自分の軸」があれば、どんな人とも渡り合える >
更新:11月22日 00:05