2020年01月10日 公開
2023年02月24日 更新
中田 国際的な競争で日本が勝つには、と考えると行き詰まるので、視点を変えましょう。そもそも、勝つことは大事でしょうか? 必ずしも幸福と直結しないのでは?
坪井 なるほど。幸福度という軸で考えてみよう、と。
中田 勝ち負けとは別の、幸せのありようを探りたいと、僕は思います。例えば、日本はなんでも自国流にする国ですよね。仏教しかり、クリスマスやハロウィンしかり。
坪井 ラーメンも、餃子も。
中田 そう。インドのカレーもそうです。「世界標準はそうじゃない」と言われても、我流を極めて文化として開花させてきたのが日本。日本はグローバル化しようとするほど弱点が露わになってしまいますが、グローバルなものを日本化することで、日本人にとって幸福に暮らせる国を作ってきたのではないでしょうか。この特性を、デジタル通貨革命以降に活かすヒントはありますか?
坪井 トークンが一つの方法かと思います。従来、「代用貨幣」と訳されてきた言葉ですが、ブロックチェーンを使ったトークンは、お金に換えられない価値を定量化するツールになります。例えば、あるサッカーチームのファンのコミュニティの中で使える、チームに対する熱量を定量化したトークンを発行すれば、貧乏だけれども熱烈なファンがそのトークンを使って、試合会場の特等席に座ったり、選手と握手したりできる、といったことが可能になります。価値の内容ごとに閉じたコミュニティを作り、それぞれがトークンを発行している国になる、なんてどうでしょう?
中田 閉じた国の中の閉じたコミュニティ、面白いです! 僕の幸福のイメージとも合致します。勝つことより、居心地が良い場所を得ることこそが僕の幸せなのですが、トークンエコノミーなら、この価値観に基づいた社会を実現できるのですね。
中田 デジタル通貨が席巻する世界になっても、日本が独自の道を行く方法はあるということですね。
坪井 僕が国に推進してもらいたいのは、東京と地方の経済を分けることです。東京は資本主義で戦いたい人の拠点とし、地方は社会主義的に、所得が低い人も国が支え、安全、平和に暮らせる場所になればいいのではないかと思います。
中田 東京は経済特区のようなものですか。
坪井 ええ。東京を「シンガポール化」するのです。製造業の発想で労働集約型の産業を維持するのではなく、シンガポールのように知識集約型の産業へ速やかにシフトし、各国に影響をおよぼす頭脳のような都市に進化するべきだと思います。
中田 やはり、国際競争力を高めるために?
坪井 そうです。少子高齢化のハンデを超えるには、世界で戦える人が東京に集まらないと。
中田 アグレッシブですね。坪井さんを含め、戦う方々はなんのために戦うのでしょう? 稼ぐため?
坪井 僕の場合で言うなら、ちょっと先の未来を作るためです。
中田 素晴らしい! でも、未来には終わりがないので、僕にはしんどいですね(笑)。終わりがないと言えば、事業拡大そのものを楽しんでいる経営者もいるように感じます。下りられないゲームに駆り立てられているように見えます。
坪井 そのゲームに、中田さんは絶対に乗りたくないでしょう?
中田 ええ。僕のしたい事業を行なうに足るぶんを稼げば十分。シンガポールではなく、「ブータン型」です(笑)。
坪井 いいですね。東京はシンガポール、地方はブータンになるのもいいかも。個々の人がそれぞれの幸福の形を持ち、それを享受できる社会を実現させたいですね。
《取材・構成:林 加愛 写真撮影:まるやゆういち》
《『THE21』2020年2月号より》
更新:11月22日 00:05