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クレームを「処理」しようとする会社は、沈む

2019年11月19日 公開
2024年12月16日 更新

小宮一慶(経営コンサルタント)

 

「クレームゼロ運動」はやってはいけない

ときどき、あたかもいいことのように「クレームゼロを目指そう」というスローガンを掲げる会社があります。これは、ダメな会社の典型です。

「ミスゼロを目指そう」「事故ゼロを目指そう」というのは、社内で働く人の意識の問題ですから、注意喚起することで減らしたり、なくしたりすることができます。それは業務の改善にもつながります。それにより、クレームが減ることは当然、良いことです。

しかし、クレームゼロは本質的に別物です。なぜなら、クレームはお客さまが感じることだからです。こちらがゼロにしようとして勝手にできるものではないのです。

それをスローガンにし、「どうだ、クレーム件数は減っているか?」と言われても、現場で働く人たちは困ってしまいます。その挙句どうするかというと、クレームが寄せられても、「上には伝えずに隠そう」ということになります。報告したら怒られたり評価が下がったりしてしまうから、なかったことにする。握りつぶそうとしてしまうわけです。最悪です。

「うちは、半年間クレームが1件もありません」なんて言っているのは、そういう実態が分かっていない会社です。事業を続けている限り、クレームは必ず発生します。

何かで「隠そう」「隠しておけばいいや」という隠蔽体質ができてしまうと、他のことでも隠すようになっていきます。さまざまな不正の温床になっていくのです。

クレームをなくしたがる会社は、「クレームは良くないものだ」という固定観念があるのです。その考え方がすでに違っているわけですね。

一部のクレーマー体質の人は別として、一般のお客さまからのクレームというのは、自分が価値に見合うものを得られなかったという不満からきています。

その価値の基準となるのは何か。

「QPS」です。「Q=クオリティ、P=プライス、S=サービス」。お客さまはこの3つの兼ね合いで判断しています。

どんな商品でもクオリティは高いほうがいいに決まっていますが、そのクオリティも値段次第です。100円ショップの商品に、ブランド商品と同じだけのクオリティを望んではいません。「100円にしては十分なクオリティだ」と判断するから買ってくれるのです。ファーストフード店に、サービス料をきっちり取る飲食店のようなクオリティとサービスを求めないのも同じです。

お客さまは、自分が買った商品、受けたサービスに対して、見合うだけの価値がないと感じるときに、不満を感じます。なかには、クレームを申し立てるお客さまもいます。

ですから、お客さまが何にどんな不満を感じたのか、どんなことに怒っているのかを知ることは、まさにお客さま視点でのリアルな要望を知る好機、チャンスなのです。

私が顧問をしているある会社では、クレーム対応のことを「チャンス対応」と言っています。お客さまとの絆がつながる絶好の機会と受けとめているからです。その精神が、画期的なイノベーションを生んでいます。クレームはチャンスの宝庫なのです。

著者紹介

小宮一慶(こみや・かずよし)

経営コンサルタント、小宮コンサルタンツ代表

1957年生まれ。京都大学卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。米ダートマス大学タック経営大学院にてMBA取得。91年、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。96年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。2014年、名古屋大学経済学部客員教授に就任。十数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。著書に『「金利上昇」に勝てる経営』(ビジネス社)ほか多数。

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