2019年10月01日 公開
2023年02月24日 更新
孫社長も常に「短期的には赤字でいいから、徹底してLTVを追求する」という方針を貫いてきました。
ソフトバンクは右肩上がりの成長を続けてきた企業のように思われがちですが、実は2001年度から2004年度まで4期連続で赤字を出しています。5期連続で赤字を出せば上場廃止になるという瀬戸際でした。
これだけ赤字が続いたのは、2001年にADSLサービスの「Yahoo! BB」を立ち上げ、「最初は赤字になってもいいから、どんどん顧客獲得コストをかける」と決めたからです。
そして日本全国で大々的な販促キャンペーンを展開し、街頭でモデムを無料配布するという常識外の戦略に打って出ました。販売を委託した代理店は数十社、配布した場所は北から南まで数千箇所に上ります。
これほど大きな顧客獲得コストをかけてでも、まずは一人でも多くのユーザーに新しいサービスを体験してもらうことを優先したのです。また、1度にできるだけ多くの方法を試すことで、どれが本当に効果のある販売手法や販売チャネルかを見極める狙いもありました。
本当はもっと早く黒字化できたのですが、孫社長はあえてギリギリまで顧客獲得コストの投入を続けました。4期連続の赤字は、5期目には必ず黒字化できるという確信を持った上での結果だったのです
そして実際に、2005年度の営業利益は約600億円、2006年度は約2,700億円と、その後は利益を拡大し続けていきました。
数字を読むことにかけては天才の孫社長にとって、「顧客獲得コストをどこまでかけていいか」を計算するのはたやすいことでした。だから自信をもって赤字にできたのです。
そもそも、「Yahoo! BB」のサービス開始時の料金設定からして、「月額のADSL利用料が990円」という当時では考えられないほどの格安でした。
当時のADSL業者の平均的な料金は月額で6,000円前後でしたから、破格といっていい値段です。
それまでADSLは「一部のマニアが使うもの」と世間では考えられていて、一般ユーザーは「インターネットに詳しい人でないと使えない」と思っている人が大半でした。
孫社長は圧倒的な低価格に設定することで、一般ユーザーがこうした心理的ハードルを飛び越えて、「そんなに安いなら使ってみようかな」と思わせることに成功したのです。
Yahoo!オークションがスタートしたときも、手数料ゼロ円に設定しました。だから多くの人が、「だったら使ってみようか」と思ったのです。
ビジネスの初期段階では、たとえ赤字になってもいいから売り手がコストを負担し、買い手のリスクを極力減らして新規顧客の獲得に集中する。
これがソフトバンクの経営モデルです。
最近ではPayPayが大々的なキャンペーンをうっているのも同じ理由です。
「新規登録するだけで500円がもらえる」「100億円あげちゃうキャンペーン」といった出血大サービスの内容が話題となりましたが、これもキャッシュレス決済に慣れていない人たちに「それなら使ってみようかな」と思わせる顧客獲得戦略です。
もちろん、永遠に赤字では事業が成り立たないので、どこかの時点で黒字化する戦略を立てなくてはいけません。
ここで、ソフトバンクで使っていたLTVの計算式を紹介します。
LTVを厳密に計算しようとすると、かなり複雑な数式を使わなくてはいけませんが、本質を捉えるにはキャッシュフローのプラスとマイナスを分けた概算がわかりやすいと思います。
・プロダクトを売買する場合
LTV=(平均購買単価×購買頻度×継続購買期間)-(顧客獲得コスト+顧客維持コスト)
・サブスクリプションの場合
LTV=(顧客の年間取引額×継続購買期間)-(顧客獲得コスト+顧客維持コスト)
これで計算すると、「顧客獲得コストをいくらまで追加投資したらLTVがプラスになるか」がわかります。
プロダクトを売買する場合なら、前半の(平均購買単価×購買頻度×継続購買期間)が3万円だとします。そして一人目の顧客を獲得・維持するために100円のコストがかかるとすると、「3万円―100円=2万9,900円」が一人目の顧客のLTVになります。
しかし顧客を獲得するには、一人目より二人目、二人目より3人目と、コストを追加していかなくてはいけません。よって200円、300円と費用は増えていき、仮に300人目の顧客を獲得するのに3万円かけたとしたら、その顧客のLTVは「3万円―3万円=0円」になります。
よって、「3万円以上の顧客獲得コストをかけると損になる」とわかります。
サブスクリプションの計算式も同様です。
つまり、このLTVの計算式を使えば、単年度や1回あたりの購買ではなく、プロダクトのブランドまたはサブスクリプションの長期的な契約関係を前提とした最適な投資が可能になるのです。
LTVを管理するには、数字を使いこなす力が必須です。
ソフトバンクでは、すべての社員が数字を使って経営にコミットすることが求められていました。
更新:11月22日 00:05