激動の国際情勢を、一段深く理解したい。そのためには、世界史の知識が欠かせない。この連載では、世界史を大きなストーリーとして捉える見方でおなじみのカリスマ塾講師・茂木誠氏が、現在の国際情勢の歴史的背景を、キーワードで解説する。
米中の貿易摩擦が過熱する中、2018年10月4日、マイク・ペンス米副大統領が演説を行ない、経済・外交・軍事の多方面から約1時間にわたって中国批判を展開しました。あの演説は、ペンス氏個人の見解ではなく、トランプ政権の中国に対する対立姿勢の表明と見るべきです。
第2次世界大戦後、アメリカの大統領トルーマンは、ソ連の共産圏拡大を非難しました。拡大する共産主義への封じ込め政策を宣言したのです。これを、「トルーマン・ドクトリン」と言います。この宣言を契機に冷戦が始まったように、相手国を名指しで批判したことで、米中冷戦の火蓋が切って落とされたと言えるでしょう。
多くの報道機関では、両国の関係悪化の原因は貿易摩擦であると報じています。しかし、問題はそれだけではありません。中国の南シナ海での強硬な軍事姿勢、米国企業への技術移転強要、知財侵害に加えて、もっとも根深いのは宗教問題なのです。
ペンス氏の人物像を詳しく見てみると、その理由がよくわかります。彼は米国内では少数のカトリック教徒ですが、『聖書(福音書)』の教えを絶対視する点で「福音派」と呼ばれるプロテスタントの保守系キリスト教徒の支持を受けているのです。
福音派は、『聖書』の教えに反する人工中絶や同性愛には反対の立場で、まもなく世界最終戦争が起こり、神が再臨する「終末論」を信じています。アメリカには福音派の人々が約25%いて、副大統領のペンス氏の背後には、この固い地盤があるのです。
気に入らなければすぐに解任されるトランプ大統領の側近は、イエスマンばかりという印象が強いですが、トランプ大統領も、政権支持率の鍵を握るペンス氏をないがしろにはできないようです。
更新:11月22日 00:05