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しぐさや振る舞いで損をしない「身体コントロール」の技術

2019年05月28日 公開
2023年03月02日 更新

荒木シゲル(マイム・アーティスト)

 

自分の意思と見え方のギャップを認識しよう

 注意したいのは、「ステイタスは、高ければいいわけではない」ということ。あくまで、その場の状況に適したステイタスであることが重要です。

 例えば、上司と部下で営業先を訪問するとしましょう。

 この場合、上司には、商品や提案内容に対する自信と信頼をアピールするため、ステイタスを高くして、堂々と振る舞うことが求められます。椅子にゆったりと腰かけ、大きめの身振り手振りを加えながら、慌てず落ち着いたトーンで話すといいでしょう。

 一方、部下はあえてステイタスを低めに振る舞うべきです。椅子に浅めに腰かけて足を揃えて座り、こまめにメモを取ったり、資料をサッと出したりと、動きも細かくスピーディーにすることで、上司とのバランスが取れます。

 もし、上司が低いステイタスで振る舞ったり、部下が堂々としすぎていたりしたら、相手は違和感を覚えて、「変な会社が売り込みに来た」と思うでしょう。

 私のワークショップでは、参加者にステイタスを8段階で表現してもらっています。例として、私が実演した写真をご覧ください(写真310)。もともと演劇用メソッドなので多少オーバーに演じていますが、ステイタスのレベル感を知る参考になると思います。普段、自分が座るときは、何段階目のステイタスで振る舞っているか、チェックしてみるといいでしょう。

 面白いのは、ワークショップの参加者に実演してもらったあとで、見ていた人に「この人が演じたのは何段階目のステイタスか」を当ててもらうときです。本人は「4」で振る舞っているつもりだったのに見ている人は「7」に感じたり、またはその逆だったりすることが多々あるのです。

 つまり、自分がイメージしているステイタスと実際に身体の動きが表現しているステイタスには、ギャップがあるということ。自分が思っている以上に威圧的に振る舞っていたり、反対に自信なさげに振る舞っていたりする可能性があるのです。

 だからこそ、自分の身体コントロール能力を高め、表現したいステイタスに合う動作やしぐさをすることが必要です。

 

直線的か曲線的かで印象が180度変わる

 もう一つ意識していただきたいのが、身体の動きが「直線的」か「曲線的」かという点です。

 ビジネスの交渉・商談や改まった場などで、強さや威厳、格式の高さを表現したいときは、直線的な動きを意識します。

 背筋を伸ばして上半身をまっすぐに立て、足も曲げずに伸ばし、手を動かすときも腕や指先をピンと伸ばして直線的な動きをすると、ステイタスが高めの印象になります(写真11)。

 反対に、相手に親しみや安心感を与えたいとき、またカジュアルな場面では、曲線的な動きを意識するといいでしょう。

 頭を傾けたり、わざと上半身をくねらせたり、膝を少し曲げてみるなどして曲線的な動きをすると、優しさや親近感を表現できます(写真12)。

「いつも部下に怖がられる」「威圧感を与えてしまう」と感じている人は、曲線的な動きを意識するといいでしょう。逆に、いつも優しく親しみやすい印象の人が、リーダーとして部下に指導しなくてはいけない場面があれば、直線的な動きを意識することで、威厳や説得力を増すことができます。

 また、「方向」と、相手との「距離」も重要です。

 身体のパーツの中でも、特に頭・胸・足は、自分の意識が向いている方向を表します。これらのパーツが相手のほうを向いていれば、「あなたに意識を向けていますよ」というメッセージになります。逆に、まったく別の方向を向いていたら、相手を拒絶するメッセージが伝わってしまいます。中でも足は、居心地が悪いと感じると、無意識に出口を向く習性があると言われています。足が相手ではなく、部屋の出口を向いていたら、「すぐにでもここを出て行きたい」という気持ちが伝わってしまうわけです。

 相手との距離は、近いと「あなたと親しくなりたい」という印象になりますし、遠いと「あなたを避けたい」という印象になってしまいます。

 相手を拒絶するポーズの一例が、写真13です。向かって右隣に会話の相手がいます。

 視線こそ相手のほうに向けていますが、胸や足は別の方向を向いています。しかも、上半身を後ろに反らして、相手から距離を取ろうとしています。これでは相手に「早く話が終わればいいのに」というメッセージが伝わってしまいます。

 

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プレゼンの重要な場面では手の位置を高くする >

著者紹介

荒木シゲル(あらき・しげる)

マイム・アーティスト/身体表現コンサルタント

1969年生まれ。千葉県出身。高校卒業後、英国の美術大学に留学。卒業後はデズモンド・ジョーンズに師事し、パントマイム・アーティスト、俳優として活動。98年に帰国後は、CGキャラクターアニメのアドバイザーとして映像やゲーム製作に関わる。また、ヒューマノイドロボット研究者が集まる「デジタルヒューマン・ワークショップ2005」、国内外のCGクリエイターが集まる「シーグラフアジア2009」、スイス・チューリッヒ大学のシンポジウムなどで身体表現に関する講演を行なう。現在は、即興演技やパントマイムを取り入れたコミュニケーションセミナーを企業や学生向けに開催。著書に『しぐさの技術』(同文舘出版)がある。

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