2018年07月27日 公開
2023年01月18日 更新
大友宗麟が主人公の歴史小説。
宗麟は九州の北半分を支配するほどの勢力を誇った戦国大名ですが、やや地味な印象があるかもしれません。九州の戦国大名といえば島津家が一番人気で、宗麟は島津家に打ち破られたからでしょうか。
しかし、本作を読むと、宗麟の英明さと人間性に、好感が持てると思います。
私が本作を読んで面白いと思った点を3つ挙げると、1点目は、生涯を3つのフェーズに分けて、それぞれの特徴をわかりやすく描いていること。
まず、実名の「義鎮」を名乗る時期。キリスト教や西洋の文物を知り、市井で暮らす人々の苦しみも知り、迷い、悩みます。
次に、法名の「宗麟」を名乗る時期。普通は、出家するのは俗世を離れるためなのでしょうが、宗麟の場合は、迷いを捨てて、毛利家と徹底的に戦う覚悟を決めるために出家します。
最後に、洗礼名の「ドン・フランシスコ」を名乗る時期。神仏を信仰する家臣たちに配慮して、宗麟がキリスト教の洗礼を受けたのは、家督を嫡男の義統に譲った後でした。キリスト教徒が神仏を信仰する人たちといかに共存するかを模索します。
こうした人物像の変化を、成長物語を読むように楽しめます。
2点目は、戦国時代の経済、特に貿易について、細かく説明されていることです。
宗麟が盛んに南蛮貿易をしていたのは、よく知られているでしょう。そして、日本から銀が大量に流出したことや、その銀の多くが石見銀山から産出されたことも、よく知られていると思います。しかし、尼子家や毛利家が支配したエリアにある石見銀山と大友家との関係は、あまり知られていないのではないでしょうか。
また、銀と交換に何を輸入し、それが戦にどのような影響を与えたのか。九州北部には東アジア貿易の拠点である博多がありますが、大友家と博多との関係はどうだったのか。王直が率いる倭寇との関係はどうだったのか。さらには奴隷貿易についてまで、詳細に描かれています。
3点目は、宗麟の側近たちのキャラクターです。
宗麟は病弱で戦場に出る機会が少なく(それが家中でも問題視されるわけですが)、代わりに、勇猛な側近たちが戦場で活躍しました。戸次道雪、吉弘伊代守、臼杵越中守、斎藤左馬助といった面々です。彼らが、何かあるごとに、ドカドカと宗麟のもとにやってくる様子が微笑ましい。ユーモラスで、宗麟との関係性の強さが感じられます。
波瀾に満ちていながら、清々しさも感じられる、タイトル通り「海」のような読後感でした。
執筆:S.K
更新:11月10日 00:05