2018年06月15日 公開
2023年01月30日 更新
最近、仕事に余裕が出てきたことから、本を読む時間が増えました。さらに仕事に役立つ本を読んで、編集者としてレベルアップ! と意気込んで書店に行きました。初めは『君たちはどう生きるか』『武器になる哲学』『日本再考戦略』等々の真面目な書籍を買っていたものの、その途中で出合ってしまいました……。『男の!ヤバすぎバイト列伝』。インパクトの強い表紙につられてついジャケ買い。クソ、勉強しようと思っていたのに、です。
「まぁ、勉強前の景気づけに軽くね」と読み始めたのですが、がっつりハマってしまいました。どれくらいハマったかというと、確実に笑いをこらえられないのがわかっていて、なお電車の中でページをめくる手が止まらないくらい。しかも、現在読むのは二巡目半。こんなに夢中になってのは、中学生時代にハマった『魁 クロマティ高校』『行け! 稲中卓球部』以来かもしれません。
さて、前置きが長くなりましたが、この書籍の感想を一言で表わすと「ひどい」。ただ、これは最大の称賛であります。本書は、サブカル界の重鎮、バンド「ロマンポルシェ。」の掟ポルシェ氏のバイド人生を綴ったエッセイ。帯にもある通り、バイト素晴らしいっていう本ではありません(ちなみに、帯は東村アキコ先生)。世の中を舐めきっていた掟氏が、いかにダメダメな人生を歩んできたかをコミカルに描いています。本来、「クズエピソード面白い!」と楽しむものだと思うのですが、私は共感の嵐でした。
まず、掟氏の「バイトは、嫌な事に耐えたらお金を貰える罰ゲームだと思っていた」というファッキン舐めた態度。自分の自堕落を肯定するために、都合の良い反社会的パンク精神を気取る。過去の私です。こんな私が、経営の神様が始めた出版社にいるのだから、人生は不思議なものです。ちなみに、今では真面目に働き、会社のために鉋(カンナ)みたいに命を削っています。本当です。
そして、治験のバイトの話。「働きたくないけど、好きなレコードや本のためにお金が欲しい……、よっしゃクスリ飲もう!」という掟氏の発想。わかります。また、治験の現場がヒマすぎて頭のおかしいゲームを始めてしまうあたりも、まったくその通りです。友人と一緒に施設に入るとヤバいゲームがスタートします。具体的な内容はここでは伏せます。ただ、今の時代の治験のバイトは、パソコン持ち込みOKなので、自分の世界に没頭している人が多く、暇な被験者同士で友達になることはそうそうありません。私がコミュ障なだけだったのかもしれませんが。
とはいえ、サラ金の話や女子プロレスのために給料だけもらってバイトを途中でバックれるなど、「流石にここまではしなかった!」というエピソードも、中にはありました。シンセサイザーを買うために、ここまで借金するとは……。
ただ、ここで思ったのは「突き抜けると、逆に道が開けるのだな」ということ。掟氏は、人には誇れないエピソードはたくさんありますが、多くのバイトをして様々な人と出合った分、話題に事欠くことがなく、コラムニストとして活動しています。また、バイトをバックれ、借金をしてまで突き詰めた趣味が、ミュージシャンとしての活動に生きています。「偏狭な趣味は、役に立つときがくる」。掟氏のメッセージには重みがあります。
正直、うらやましい。私は、サボったぶん何かをしていたわけでもなく、ただボーっと生きてきました。これは一番いけない。サボった分、何か好きなことに打ちこまなければならない。その意味において、掟氏はすごいと思いますし、尊敬しています。
最近、取材で著名人が口をそろえてこう言います。「真面目に勉強だけしてきた人間程、AI時代に淘汰されていく。むしろ、どこか常識に欠けていても、突き抜けた人のほうが生き残る確率は高い」。真面目な人ほど趣味がないとはよく聞きますし、これは今後ある意味リスクなのかもしれません。ボーっとして勉強すらしなかった私はもっとヤバイのですが。
ビジネス誌の編集部員なので、真面目な方向で締めようとしましたが、この本は基本的に娯楽です。「誰でも簡単、自己破産セット」「借金の整理屋に『借金するな』と諭された話」など、抱腹絶倒のパワーワードが随所で炸裂します。ぜひ、手に取ってみてください。
執筆:S/N
更新:11月22日 00:05