2016年12月30日 公開
介護疲れから愛する家族に手をかけてしまった被告人に、裁判員も涙を流す中、温情ある判決が下される。この本は、そんな描写をするだけに終わらない。加害者となってしまった当事者に直接話を聞き、介護殺人に接することになってしまったケアマネージャーや医師にも取材をしている。また、介護を通じて夫婦の絆を深め、安らかに妻の最期を看取った夫にも取材をしている。
ひと口に介護と言っても、さまざまなケースがある。認知症が進行し、昼夜を問わず喚き散らしたり、暴力を振るったりする親や配偶者を介護するケース。交通事故や病気で寝たきりとなった親や配偶者を、10年、20年という長期にわたって介護をするケース。生まれてきた子供が障害を持っており、40年も50年も介護を続けているケース。祖父の介護をする孫も、本書に登場する。30歳未満の介護者は、2012年の総務省の調査で、約18万人いるそうだ。
本書に登場する介護者の多くは、睡眠不足に悩まされ、うつ病を発症している。そうしたことを防ぐ助けになると思われる公的な制度や民間の活動が、実際にどのような役割を果たしているのかも、本書から窺える。
私はこれまで介護をしたことがないし、介護者と身近に接したこともないのだけれども、これから介護者になる可能性は十分にある。そのとき、利用できる制度についての知識も持っているべきだろうが、どういうストレスを感じ、どういう感情に苛まれるのかについても、まったく無知であるよりは、少しでも知っていたほうがいいのではないだろうか。知らないことに対処することは難しい。そういう意味で、本書は「役に立つ本」でもあるように思う。
執筆:S.K(「人文・社会」担当)
更新:11月22日 00:05