2018年06月21日 公開
2023年07月31日 更新
さて、この極めて日本的な問題解決策だが、これと非常によく似た法規制が行なわれた前例がある。それはウーバーに代表される配車アプリの上陸の際に行なわれた規制である。
アメリカではつかまりにくいタクシーに代わって、ウーバーやリフトといった配車アプリを用いて、スマホで車を呼び出すのが当たり前になっている。運転してくれるのは近所に住んでいて時間と車を持て余している普通の人だ。運賃はアプリ上での交渉で決まることになっているが、よほどの特別な時期や場所でない限り、競争によって価格はタクシーよりも安くなる。
中国では同じサービスを「滴滴出行(ディディチューシン)」という会社が提供し、こちらも中国では大いに需要を伸ばしている。
ところがこの配車サービスは、日本では厳しく規制されている。具体的には、一般の自家用車がライドシェアの形で客を乗せる行為は白タクとして禁止されている。だから日本のウーバーでは、一部の過疎地域を除いて配車されるのはタクシーかハイヤーだけということになっている。そして、タクシーしか配車されないため、誰もウーバーを使わないという状態に落ち着いている。
問題は「それでいいのだろうか?」という話である。
サンフランシスコではウーバー登場の結果、それまでタクシーしかなかった頃と比較して、旅客需要は5倍になったという。つまり限られたタクシー台数と高い料金で規制されていた時代にはタクシーをあきらめていた需要が、自由競争になってみたら5倍あったということだ。
タクシー業界が白タクとの価格競争で疲弊する状態がいいのかどうかについては、議論の余地はある話だと思う。しかし、ウーバーの上陸を阻止したことで日本経済が失ったものは潜在需要だけではない。
アメリカ、そして中国では今、ウーバーをインフラとして、経済全体がシェアエコノミーへと転換しようとしている。これまで稼働していなかった資産をシェアの形で稼働させることで、新たに経済全体にダイナミズムが生まれようとしている。日本はそのダイナミズムからも置き去りにされようとしているのだ。
この先、自動運転車に続いて、AI弁護士、AI医師、AI行政書士などがつぎつぎと登場するだろう。そのたびに日本の行政は、それらの新製品・新サービスを禁止し続けることになるのだろうか。そしてそのことで日本の人工知能産業が世界から置いていかれるとしたら、日本は人工知能後進国になる。そのことについての根本的な議論をすべきタイミングは、実は今しかない。
(『THE21』2018年4月号より)
更新:11月25日 00:05