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「自動運転への法規制」が、日本をAI後進国にする

2018年06月21日 公開
2023年07月31日 更新

【連載】「AI失業」前夜(第4回)鈴木貴博(経営戦略コンサルタント)

123万人の失業者が生まれる?

その結果、大きな社会問題が起きる。世界中で職業ドライバーが一斉に失業するのである。

我が国の場合、長距離トラック、バス、タクシーの三つの仕事に従事する労働人口は合計で123万人に相当する。これは宅配や引っ越しなど、運転だけではなく配達の業務量の比重が大きい労働を含まない数字である。

この123万人が一斉に失業したら何が起きるだろうか。間違いなく深刻な社会問題が起きる。リーマンショックのあとに派遣社員の雇い止めが社会問題になったが、あのときをはるかに上回る問題になる。

そしてこの123万人という数は、政治家を不安にさせるには十分な人数である。選挙で123万票、いや家族や親族を含め250万票が動いたら政権はもたない。

 

大量失業の後、一転して「運転手が大人気」に!?

では、政治家や官僚はこの問題をどう解決するだろうか?

一番簡単な解決策は「トラック輸送、タクシーやバス輸送などの業務に関わる自動車は、必ず登録された運行管理者を最低1人乗務させる必要がある」という法律を作ることである。こうすれば職業ドライバーは1人として失業しなくなる。とにかく法律で公道を走る自動車は「無人ではだめ」というルールを作れば、失業問題は議論する必要がなくなる。

もちろん乗っているだけで仕事が楽になったドライバーの給料は以前よりも下がるだろうが、ドライバーはそれで困っても運輸業界は困らない。なにしろ「運転席に乗っているだけで、あとはスマホでもいじっていればいい楽な仕事」ということになれば、ドライバーの採用に困ることはなくなる。「それだったらやってみたい」という若者やシルバー人材がもろ手を挙げて求職に訪れるからだ。

乗っているだけで今日は福岡、来週は札幌、その次は四国といった具合で日本中を旅できる長距離トラックドライバーの仕事など、無料で全国に旅行できる航空会社の社員並みの人気業種になること間違いなしだ。

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著者紹介

鈴木貴博(すずき・たかひろ)

経営戦略コンサルタント

東京大学工学部卒。ボストンコンサルティンググループ等を経て2003年に独立。過去20年にわたり大手人材企業のコンサルティングプロジェクトに従事。人工知能がもたらす「仕事消滅」の問題と関わるようになる。著書に『仕事消滅』(講談社)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)他があり、後者は累計20万部超のベストセラー。経済評論家としてメディアなど多方面で活動している。

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