2018年06月16日 公開
2023年07月31日 更新
なぜ正社員が減少し非正規雇用が増加したのかも、このパワードスーツ効果で説明できる。技能が要る仕事、責任を伴う仕事のかなりの部分が正社員でなくてもできるようになったからだ。現代の非正規雇用社員が働く現場を見てみれば、そのことがよくわかる。
コンビニではパート店員が発注業務を通常業務としてこなしている。小売店の発注業務というのは本質的にものすごく責任のかかる仕事である。発注が適切でなければ多額の機会損失を生んだり、過剰在庫を発生させて貴重な運転資金を浪費してしまう。売り場やバックヤードの在庫の減少を把握し、需要の予測を踏まえ、数日先までの天気や、ニュースやテレビ番組、SNSでの話題も念頭に置いたうえで商品を適正量発注する必要がある。過去の常識では熟練の売り場社員でなければできないはずのこの仕事が、システム化のおかげでパート店員がする仕事へと変わってしまった。
携帯電話売り場のスタッフの仕事は本来、高額商品の販売であり、法令に則ったきちんとした説明が必須とされる業務である。携帯電話は消費者が感じるようなゼロ円ではなく、通常、2年契約で総額20万円近い利用料の支払いをしばる商品だ。
法令に則って消費者の誤認がないように携帯の新規契約を行なうには、膨大でかつ緻密に組み込まれたセールスプロセスをこなす必要があるが、携帯販売現場ではそれを高度にシステム化することで、雇ってまだ日が浅いパート店員でもそれほど問題なくできるように販売プロセスを作り上げている。
現代の仕事の現場では、「(新しい)事業や業務の勝ちパターンを設計し、それを横展開できるようにする」までが正社員の仕事だ。
大企業傘下の事業会社では、「このやり方で商品/サービスを販売すれば高い利益率を上げることができる」という成功パターンを生み出すのがステップ1。そして一度成功パターンが確立できたら、それを短時間でどれだけたくさん非正規社員が運営する事業所としてコピーするかを考える仕事がステップ2。そして、そのプロセスを継続的に磨き上げるのがステップ3。この三つのステップを経営者がマネジすることで、企業は莫大な利益を上げている。
ステップ1は主に正社員が担当する。そしてステップ2とステップ3は少数の正社員ができるだけ多数の非正規社員に仕事を担当させることで、利益額の規模の極大化を目標とする。
こうして完成した事業モデルでは、それがうまくできていればいるほど、少ない数の正社員で全体システムが運営され、同じ「仕事」が全国津々浦々で「コピー」された経済システムが出来上がる。現代のビジネスはこういった設計思想で拡大しているのだ。
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「正社員」の意味の変化がブラック企業を生んだ >
更新:11月25日 00:05