THE21 » キャリア » あの有名企業のオフィスを大公開!

あの有名企業のオフィスを大公開!

2018年06月02日 公開
2021年08月16日 更新

小笹芳央(リンクアンドモチベーション代表取締役)

モチベーションの達人が挑む新発想のオフィス

「新しい働き方」を実現するためには、「働く場」を見直すことも重要だ。モチベーションに特化したコンサルティングで知られるリンクアンドモチベーションは昨年5月、さまざまな工夫を盛り込んだ新オフィスへの移転を行なった。その背景には「コミュニケーションの活性化による新しい働き方」の実現があるという。小笹芳央会長にその狙いをうかがった。

 

コミュニケーションを重要視する理由とは

 開業間もない「GINZASIX」のワンフロアに広がる広大なオフィス。複数の拠点に分かれていた事業所を1つにしたこの大規模移転の最大の目的は、「社員間のコミュニケーションの活性化」にあるという。小笹氏は社員間のコミュニケーションを「組織の血流」にたとえ、その活性化なくして組織は生存できないと主張する。

「当社はモチベーションを組織の成長の原動力と捉え、それを最大化するコンサルティングを行なっていますが、そこで最も重要になるのは、『コミュニケーション』です。

 私たちは人間を『限定合理的な感情人』と捉えています。人間が100%合理的なら、金銭的な報酬を高めればいくらでもやる気になるはずですが、実際にはそんなことはありません。人間は感情を持つ生き物であり、金銭的報酬に加え、承認欲求・貢献欲求・成長欲求・親和欲求など、感情を満たす報酬が必要です。そして、それらのほとんどはコミュニケーションによってもたらされます。

 一方、我々は組織を『要素還元できない協働システム』と捉えています。人体をバラバラに分割したら機能しないように、組織もまた、バラバラに動いていては機能しなくなる。人体においてすべての器官を連動させるのは『血流』ですが、組織にとっての血流とはコミュニケーションにほかなりません」

 組織にとってコミュニケーション不全はまさに「死活問題」だという。

「組織で起こる『人の問題』は、実際には人と人との『間』に起こることが大半です。部門と部門の間、本社と支店の間、上司と部下の間。それを解決するためには、コミュニケーションが活性化する場づくりが不可欠です。今回の移転も、その考えに基づいて行なわれました」

「 GINZASIX」12階に位置する、リンクアンドモチベション。銀座四丁目の交差点を一望できる。

 

世界観を共有する広大なオフィス

 オフィス移転に際してはプロジェクトチームを組み、コンセプトから細部まで綿密に練り上げていったという。

「最も注力したのは、世界観の共有です。新オフィスのコンセプトは『港町』。地方の六か所にある拠点のコンセプトが『SHIP(船)』であるのに対し、本社はその母港。そのイメージで、デザインを統一しました」

 フロアは本社社員1400人をワンフロアに収容するほど広い。

「座席はすべてフリーアドレス制。といっても完全な自由席ではなく、ゆるやかに部署ごとのエリアを決め、その中で好きな席を選べる『デザインアドレス制』を採用しています。エリア同士のレイアウトも必要に応じて変えられるので、部署Aと部署Bが協力して行なうプロジェクトの際や、ある部門と部門の関係を強化したい際などは、その部門同士の位置を近づける、といった対応が可能です。

 また、オフィス内には軽い打ち合わせができるスペースをいくつも設け、社員同士が気軽にコミュニケーションを取れるようにしています」

 移転して8カ月、これらの試みは着々と実を結びつつある。

「コミュニケーションが密になった効果を強く感じます。以前は電話やメールで連絡せざるを得なかったことが、今は顔を合わせて確認でき、小さな行き違いや再確認がなくなった、という声が数多く聞かれます。

 また、コミュニケーションのスピードが速くなったことが、仕事の効率化にもつながっているようです」

 ちなみに同社は「深夜残業禁止」であり、午後10時には完全に消灯する。

「もっとも、10時まで会社にいる社員はほぼいません。連携がスムーズになったこともありますが、それだけではなく時間の制約を意識して働くことで、効率よく仕事をする工夫が生まれたのだと思います」

オフィスのコンセプトは『港町』であるため、会議室は、それぞれ海にちなんだ名前がついている。

 

ダイバーシティ時代こそ「束ねる力」が必要

 昨今はデジタルツールの発達もあり、オフィスに行かなくても仕事ができる時代。なぜ、あえて「顔を合わせた伝達」にこだわるのだろうか。

「メールは言葉だけを伝えるツールなので、ともすれば小さなニュアンスや感情の機微が抜け落ち、あらぬ誤解を生みがち。通常の連絡ならメールで十分ですが、クレームや要望や議論など、感情に影響する話は必ず顔を合わせて行ないます」

 昨今はテレワークを取り入れる企業も増えている。だが、その流れに安易に乗じるのは問題だ、と語る。

「もちろん、働き方の多様化により、こうした施策は必要なことではあります。ただ、多様化という『分散』を推し進めるなら、同じ力で『結束』も強化しなくてはいけません。理念の周知、共通の目標設定――そうした『束ねる力』を強めないとひずみが生まれます。実際、その事態に陥った企業からの相談事例も増えています」

 他にも数々の工夫で、社員同士のコミュニケーションを活性化させている。

「未知の社員同士が交流する『ランダムランチ』という昼食会や、その月に誕生日を迎えた人たちで集まるバースデーランチを開いています。サークル活動も、法人間を超えた交流の場として盛んに行なわれています」

 こうした「インフォーマルコミュニケーション」は時間の無駄、という考え方も根強いが、小笹氏はそれに異議を唱える。

「週末のサークル活動、就業後の『飲みニケーション』は大いに結構だと思います。仕事上では本来関わらない社員同士が交流することで、新しい発想や問題解決の糸口が見つかる、というケースは実に多いのです。

 インフォーマルなコミュニケーションの重要性に気づき始めた企業も多く、社内旅行や運動会が復活した、という話も増えているようです。分散と結束を同時に進めていく施策が、今後、企業には求められるのではないでしょうか」

座席は、ゆるやかに部署ごとのエリアを決める『デザインアドレス制』を採用。自由でありつつ、枠組みもしっかりと設けている。

 

『THE21』2018年3月号より

 

取材構成 林 加愛

写真撮影 榊 智明

著者紹介

小笹芳央(おざさ・よしひさ)

リンクアンドモチベーション会長

1961年大阪府生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルートに入社し、人事部で採用活動などに携わる。組織人事コンサルティング室長、ワークス研究所主幹研究員などを経て独立。2000年に株式会社リンクアンドモチベーションを設立し社長に就任。’13年から現職。モチベーションエンジニアリングという同社の基幹技術を確立し、幅広い業界からその実効性が支持されている。
著書に、『会社の品格』(幻冬舎新書)、『松下幸之助に学ぶ モチベーション・マネジメントの真髄―ダイバーシティ時代の部下の束ね方―』『1日3分で人生が変わるセルフ・モチベーション』『変化を生み出すモチベーション・マネジメント』(以上、PHPビジネス新書)など多数。

THE21 購入

2024年12月

THE21 2024年12月

発売日:2024年11月06日
価格(税込):780円

関連記事

編集部のおすすめ

葛西紀明・負けず嫌いの「レジェンド」のやる気UP術

葛西紀明(スキージャンプ選手)

なぜ、中堅社員ほど、やる気を失うのか?

山本寛(青山学院大学経営学部教授)