2012年02月01日 公開
2024年12月16日 更新
徹底した成果主義のもとで競い合う、個性豊かなスポーツエリートたちの集団。プロ野球チームを動かすのは並大抵の苦労ではないだろう。選手とのコミュニケーションには特別な工夫があるのだろうか。
「2010年に監督代行に就任することになったとき、チームの状況、なぜ勝てないのか、何をしなければならないのかを考えて、選手のメンバー構成を変えることにしました。
そのとき、それまで2年連続で盗塁王を獲り、ずっとレギュラーで出ていた福地(寿樹外野手)を外すという決断をしました。
立場上、監督が声をかけたら、選手は『はい』としかいえないのが普通だと思います。それを承知のうえで、福地には『申し訳ないな』と折に触れて言い続けました。
救いだったのは、福地が『大丈夫です。いつ出てもいいように準備だけはしますから』といってくれたこと。実際、彼の練習ぶりは徹底していました。これには、ほんとうに頭が下がりました。
基本的に、レギュラーで出ている選手には気を使う必要はありません。出られない選手のほうにすごく気を使います。野球というのはレギュラーだけでは勝てませんから。
コミュニケーションが大事だとよくいわれますが、私は決してベラベラとしゃべるほうではありません。正直なところ、いくら話したところで、人間の本質はわからないと思っています。
誰でも、自分の立場にふさわしい受け答えをするのが当たり前だからです。本音を見抜こうなんて思っていないし、選手に声をかけたからといって、すぐに何か影響が出るとも思っていません。ただ、どうすればその選手にとっていちばんプラスになるか、ということは考えています。
たとえば試合でミスをしたとき、同情してなぐさめてやるのも1つの方法だろうし、逆に、皆の前で指摘したほうがうまく気持ちを切り替えられることもあります。
選手によっては、あえて全然話をしないこともありますよ。サインを無視した選手と1週間くらい口をきかなかったこともあります。何か明確な意図があってのことではないのですが、選手をじっくりと観察していれば、適切な接し方が何となくみえてくるんです」
話したからといってすぐに効果が出るとは思っていないというのは、具体的な野球の技術についても同じだという。
「野球というのはミスの確率が高いスポーツです。打撃でいえば、おおむね7割以上は失敗するわけですから。どうやればうまくいくかという正解もありません。
成功の確率を少しでも上げられるよう、選手にアドバイスをすることもありますが、それがすぐに活きるということはまずありません。『監督のアドバイスで結果が出た』とスポーツ紙にはよく書いてありますが、実際には長く複雑なプロセスを経て、結果が出ているんです。
ただ、これから何年も選手たちが現役をやっていくなかで、自分が話したこと、いろいろな方法論や考え方というのは、いずれその選手の“引き出し”になることだけは間違いないと信じています。人の言葉には間違いはないし、逆に、これが正解ということもないんじゃないでしょうか」
更新:04月19日 00:05