2018年04月14日 公開
2023年01月11日 更新
生産性が重視される昨今だが、「日本のサービス産業の生産性は低い」という声をよく聞く。しかし、画期的なサービスが話題を呼び、成長を続ける企業もある。国内外約40拠点で旅館やホテルを展開するリゾート運営会社・星野リゾートがその一例だ。同社ではトップの知らないところで社員自らがさまざまな企画を生み出し、ヒットさせ、それが組織の活性化、同社の競争力の高さにつながっている。そんな「社員が勝手に利益を作り出す」組織文化の秘密を、星野佳路代表にうかがった。(取材・構成=前田はるみ、写真撮影=長谷川博一)
星野リゾートが運営するリゾート施設では、現場発のアイデアから生まれた人気企画がたくさんある。たとえば、奥入瀬渓流ホテルの「苔さんぽ」などは、代表の星野佳路氏は当初「なぜ雄大な渓流を背に、わざわざ苔を見るのか」と疑問に思ったそうだが、苔が大好きなスタッフ主導で実際にやってみると大人気のアクティビティに。「社員が自由にやりたいことに挑戦できるフラットな組織文化が、私たちの競争力の源泉」と語る星野氏に詳しくうかがった。
「私たちが大事にしているのは、言いたいことを、言いたい相手に、自由に言える環境であり、やりたいことに自由に挑戦できる環境です。つまり、それぞれが持てる力を百%発揮できる環境をつくることです。反対に、上司の指示が絶対だったり、自らの自由な発想や発言、行動が人事評価で不利益につながったりする環境では、自分の力を十分に発揮することができません。年齢や勤続年数、ポジションに関係なく、自ら発想して行動できる環境作りが私たちの目指すところ。その一環として、スキルを伸ばしたい人には『麓村塾(ろくそんじゅく)』という社内ビジネススクールで学ぶ機会を与え、マネジメント職に挑戦したい人のために立候補制度を設けています」
昨年4月から星野リゾートが運営を開始した旭川グラウンドホテル(今年4月から「OMO7旭川」としてリニューアルオープン)でも、フラットな組織文化の浸透が進んできたという。
「このホテルも以前は縦型組織で、上司の指示に従って仕事をする環境でしたが、星野リゾート社員を総支配人として送り込み、フラットな組織文化を浸透させてきた結果、スタッフによる自由な発言が増えている印象です。中堅の社員にはまだ遠慮が見られますが、フラットな文化に馴染みやすい若いスタッフは自由に活躍し始めていますね」
従来のタテ型組織をフラットに変えていくのは並大抵ではないはずだ。フラットな組織文化を目指すうえで重要なことは何だろうか。
「フラットな組織文化とは、組織図が平らであるという意味ではなく、お互いの働き方がフラットだということです。そのためには普段から人間関係がフラットであることが求められます。これは制度を導入すれば達成できるものではなく、文化を変えていく必要があります。したがって、トップの覚悟とコミットメントが欠かせません」
フラットな組織文化を阻害する大きな要因は、「偉い人信号」と「情報量の差」だと星野氏は指摘する。
「上司のデスクだけ他のスタッフより大きかったり、〇〇部長や〇〇課長と役職名で呼んだりするのは、典型的な『偉い人信号』です。星野リゾートではお互いに役職で呼ぶことを禁止し、また役職に関わらず皆が同じデスクで仕事をしています。こうした『偉い人信号』を一つひとつ排除していくことが、フラットな組織文化をつくるための最初のステップです。加えて、マネジメント層も現場のスタッフも与えられる情報量を均一にすること。社内における情報量の差を限りなく少なくすることで、社員が正しく発想したり、説得力のある意見を言えたりします。これもフラットな組織文化を実現するための前提条件です」
更新:11月25日 00:05