2018年03月01日 公開
2023年05月16日 更新
近年、「日本のサービス産業の生産性は低い」という声をよく聞く。本当にそうだろうか。もちろん、急速な少子高齢化や労働力不足で苦境に立たされる企業は少なくない。
だが一方で、画期的なサービスが話題を呼び、業績向上に成功した企業もある。国内外約40拠点で旅館やホテルを展開するリゾート運営会社・星野リゾートはその象徴といえるだろう。
PHP研究所より発刊された『トップも知らない星野リゾート』で、星野佳路代表は、星野リゾートの運営力の背景には「フラットな組織文化」がある、と述べる。
フラットな組織文化とは、社員に「自ら発想し、発言し、行動できる自由」が与えられている状態を示し、人間関係がフラットであることが前提になるという。では、この理想的な組織環境を組織内で創り出すためにはどうすればよいか。星野代表は本書でこう述べる。
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「うちの会社も結構フラットです」とおっしゃる方にお会いすることがありますが、よく話を聞いてみると、実は本来の意味でのフラットではないことも少なくありません。フラットな組織とは、組織図が形状的に平らであることを意味しているのではなく、お互いの働き方がフラットであるということです。たとえば、会議で議論するときにも、誰がどんな意見であるかをまったく気にせずにお互いの意見を戦わせ正しい議論をすることができる働き方です。これを実現するには普段から人間関係がフラットであることが求められ、それは「制度」を導入すれば達成できるものではなく、文化そのものを変えていく必要があります。
「どのような状態がフラットなのか」を理解することは容易ではないのですが、真にフラットな組織文化を持つ組織では以下のような現象が事例として現れています。
・社員一人ひとりが相手のポジションに関係なく思ったことを発言している。
・社内の情報の流れに規制がない。相手の部署や役職に関係なく、社員は上司を通さず話したい人に自由に話ができる。
・社員は発想や議論に必要な情報について、知りたいと思ったときにアクセスすることができる。
・オフィスを見渡しても誰が役職者なのかわかりにくい。
・会議室で座る位置が決まっていない。参加者は自由に好きな席に座る。飲み会の席でも同じ。
・全員で集合写真を撮るときにも、並ぶ順序などは誰も気にしない。真ん中のほうに管理職がいたりすることもなく、ランダムに並んでいる画像になる。
フラットな組織文化をつくっていくときに効果的な最初のステップは、それを阻害する大きな要因である「偉い人信号」を少なくしていくことです。私たちの組織をよく見ると、「偉い人信号」が至る所に存在しています。たとえば、「〇〇部長」や「〇〇課長」のように役職名で呼んだり、会議室での席順やタクシーに乗車する際の順番が決まっていたり、同じオフィス内でデスクの大きさが異なっていたりするのは典型的な「偉い人信号」。上司が会社の情報を豊富に持ち、「皆さんが知らない情報を私は知っているんだぞ」と優位性を保とうとするのも「偉い人信号」です。
星野リゾートの各運営施設では、互いに役職で呼ぶことを禁止しています。スタッフが総支配人やマネジャーを呼ぶときに役職名では呼ばず「〇〇さん」と「さん付け」で呼び、総支配人やマネジャーが社員を呼ぶときにも同じように「さん付け」で呼ぶことをルールとしています。代表である私も会社内に個室オフィスもなければ決まったデスクも持っていません。これらは「偉い人信号」を一つずつ排除してきた結果ですが、フラットな組織文化を達成するには不可欠な要素であったと思っています。
「現状を考えると偉い人信号を排除していくのは大変だ」と感じるかもしれません。
だからフラットな組織文化を達成するのは難しいのです。制度を変えることで組織がフラットになるなら人事部に任せておけばできます。だが、文化そのものを変えなければフラットにはならないからこそ、会社のトップのコミットメントが不可欠なのです。「なんとしてもフラットにする」というトップの覚悟がなければ、フラットな組織文化は絶対に実現しません。
《『トップも知らない星野リゾート』(前田はるみ著、『THE21』編集部編)より引用》
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本書では、星野リゾートの「フラットな組織文化」の実践例が紹介されている。全国各地の星野リゾートを舞台に展開される10のストーリーが、鮮やかな写真と共に描かれており、施設に足を運んだことのない読者も具体的な情景がイメージできるだろう。現場社員の発想を最大限に活用し、組織の競争力を高めるためのヒントを本書から得てほしい。
更新:11月25日 00:05