2018年03月09日 公開
2018年03月16日 更新
相手の表情や態度からその考えを見抜き、本音を引き出すプロと言えば、犯罪の被疑者を取り調べる警察官や検事だ。取り調べと言うと威圧的に相手を詰問する光景を思い浮かべるかもしれないが、元検事で数々の被疑者の「口を割らせた」実績を持つ大澤孝征氏によれば、「それでは頑なな相手ほどしゃべらない」という。では、その「本音を引き出す」ための技術とは。(取材・構成=塚田有香、写真撮影=長谷川博一)
テレビのコメンテーターとしてもおなじみの弁護士・大澤孝征氏。検事として法曹界でのキャリアをスタートし、数多くの被疑者の口を割らせてきた「本音を引き出すプロ」でもある。なかなか真実を話さない手強い相手の心を動かし、口を開かせるために、一体どんな心理テクニックを使っているのだろうか。
「先日も、ある企業に呼ばれたんです。『社内で不正をした社員がいるが、いくら問い詰めても本人が認めないので、大澤先生から聞いてほしい』と。
そこで私がその社員に会いに行ったところ、対面して十分もしないうちに『自分がやった』と白状しました。
それまでさまざまな状況証拠やデータを突きつけても口を閉ざしていた人間が、私に会ってすぐ話し始めたので、その光景を見ていた会社の役員たちは唖然としていました。
しかも私が元検事なので、相手を高圧的に威嚇するか、あるいは諄々と説教するような取り調べを想像していたのでしょう。ところが、私がその社員に話しかけたのは、『君、もういい加減に本当のことを言ったらどうだ』のひと言。すると相手が『少し考えさせてください』と言うので、『もちろん十分考えたらいい。でも君は人生の岐路に立っているのだから、本当のことを話したほうが後々のためにもいいんじゃないかな』と言ったまでです。おそらく端から見れば、私がごく普通の会話をしたようにしか思えなかったはずです」
だが、そこには間違いなく「本音を引き出すプロの技術」が隠されている。その極意は何かといえば、「相手本位」の姿勢で臨むことだと大澤氏は話す。
「『相手の口を割らせたい』と思うと、大抵の人は相手の話から矛盾点を発見し、それを追求することに夢中になります。『お前の話は証拠とは違う』『ここはロジックが破綻している』などと逐一指摘して、『自分はこれだけお前のことを調べたんだぞ、恐れ入ったか!』と誇示したい欲求が生まれてしまうのです。
しかし、これは自分本位の会話でしかありません。
人間とは不思議なもので、『俺はお前のことを何でも知っているんだぞ』という態度を見せると、相手はかえって『こいつには絶対に話すものか』と反発心を強めます。こちらの指摘がいくら理論的や道義的に正しくても、それだけで相手の本音を引き出すのは難しいのです。
そこで大事なのが、相手本位で話を聞く姿勢です。つまり相手の立場になり、『君の言うことは理解できる』という態度をとる。先ほどの社員も、『十分に考えたらいい』という私の言葉を『言いたくない気持ちもわかるよ』という共感の言葉として受け取ったから、『この人なら話してもいい』と思ったのでしょう。
私は、これをよくラジオにたとえます。ラジオは自分がダイヤルを調節し、周波数を合わせないと聞こえませんよね。対面のコミュニケーションも同様です。『自分は相手と同じ人間なのだから、周波数を合わせられるはずだ』という前提に立たなければ、相手から本音を引き出すことなどできません」
更新:11月23日 00:05