2017年12月27日 公開
2023年03月23日 更新
地主や都市農家のみなさんが相続対策に取り組むにあたっては、一族のメンバーの中で誰が舵を取るのかということが重要です。
一般には、年配の家長がほとんどの資産を所有し、相続対策にあたっても家長の判断が優先されます。ただ、それが決断の遅れや、見て見ぬふりにつながっている面もあります。
変化の激しいいまの時代を乗り切っていくには、地元の狭い、昔ながらの世界しか知らない家長が一歩引き、外の世界を知っている若い後継者世代に舵取りを任せてもらうほうがうまくいきます。もちろん、最終判断は家長にしてもらうべきですが、いろいろな情報を集め、外部の専門家とやり取りし、具体的なプランを立てるのは、若い後継者世代が行ったほうがいいと思います。
家長の世代には、昔から付き合いのある税理士や会計士、銀行、JAなどいろいろな相談相手がいるはずです。
年配の方々は安定を好む傾向が強いこともあり、相続対策でもそうした昔馴染みを信頼しているケースが少なくありません。
しかし、時代が大きく変わってきているのですから、若い後継者世代のみなさんは相談相手もゼロベースで見直すべきだと思います。親世代の昔ながらの相談相手が意外に、時代の変化に対応できていないことがあるからです。相談相手を間違えたために、相続対策に失敗するケースはかなりあります。
一度に切り替えるのは難しい場合、まずは他の専門家などにセカンドオピニオンを依頼するところから始めてみるとよいでしょう。
そもそも、相続対策にはいろいろなやり方があります。解説書などもたくさん出ています。しかし、実際の相続対策は複雑なパズルを解くようなものです。
相続人のうち誰がどの資産を引き継ぐのか、そのためにどのような方法を使うのか。同じような家族構成と資産内容であっても、ケースによって正解は違います。
また、土地の上を高圧電線が通っていたり、隣に嫌悪施設があったりすれば、土地の評価は当然、変わってきます。それなのに、相続税の申告を依頼された税理士が現地を確認しないまま手続きをしているケースもあります。
相続対策は一般論で語ったり、書類を見ただけではできません。足を使い、汗をかき、議論を尽くしてこそはじめてベストの相続対策が見えてきます。
具体的な相続対策の手法はいろいろあります。事前に行える手法の、一例を挙げておきます。
・遺言書の作成
・生命保険への加入
・婿や孫との養子縁組
・現金や不動産の生前贈与
・遺留分の放棄
・不良資産の売却、組み換え
・ファミリーカンパニーの設立
・ファミリーカンパニーへの不動産の移転
・ファミリーカンパニーの株式の生前贈与
専門家などと相談の上、ご自分の一族にとってメリットのある手法を選び、一定の時間をかけながら実行していきます。
ただし、ベストと思われたプランであっても、その後、状況が変化することがあります。多くのプランは親世代のうち父が先に亡くなり、母と子が資産を相続することを想定しています。しかし、母のほうが先に亡くなったり、あるいは親よりも子が先に亡くなるようなケースもあります。そうなると、前提条件が変わり、プラン全体を見直す必要が出てきます。
ほかにも、所有する不動産を巡る状況が変わったり、家族間の人間関係が変わったり、いろいろなことが起こりえます。当初、組み立てたプランを定期的に見直していくことはとても重要です。
また、相続対策は、相続が発生する前に行うのが基本ですが、相続が発生した後にできることもあります。
代表例が、納め過ぎた税金を取り戻す「更正の請求」です。簡単にいうと、税務署に申告書を提出した後で、納めた税額が多すぎることに気づいたら、申告期限から5年以内に限り、税務署長に対して「更正の請求」ができるというものです。
相続税の申告期限は、相続開始から10ヵ月ですから、「更正の請求」ができるのは、相続の開始を起点とすれば5年10ヵ月以内ということになります。
「更正の請求」で多いのは、不動産の評価に関わるものです。不動産の評価はとても複雑であり、広い土地を多く所有する地主や都市農家のみなさんの中には、本来の相続税額よりも納め過ぎているケースが見られます。
相続対策は、相続が発生し、申告・納税を済ませた後でも可能なことがあるのです。
更新:11月22日 00:05