2017年11月17日 公開
2017年11月20日 更新
この連載では、構成やトリックに驚かされるミステリを中心に紹介してきたが、本書に関して言えば、ミステリとしての驚きや衝撃度はやや低め。おそらく途中で真相に気づく人が大半ではないだろか。ただ、それでもラストまでハラハラしながら読み進めてしまう魅力がある作品なのだ。フーダニットやハウダニットといったいわゆる王道のミステリが主軸にすることが多いテーマは、本書においては本題ではないと思う。
その代わりに本書が主軸にしているのは、犯罪と刑罰に関する重い問いかけである。
個人的なことだが筆者は法学部の出身で、元検察官の教授の刑事法ゼミに在籍していた。法学を学びたいと思ったきっかけは、高校生の頃、死刑に関する本を読み、その是非や被害者救済の在り方などから刑事法に興味を持ったことがきっかけだった。
今もそうしたテーマには関心が高いため、時折、社会派ミステリ小説からこうした問いかけをされると、いつまでも余韻となって残り、しばらくその世界から離れられなくなってしまう。東野圭吾の『さまよう刃』『手紙』や貫井徳郎の『慟哭』を読んだ後などは、しばらくそれらが投げかけるテーマについて考えずにいられなかったことを覚えている(特に『慟哭』は記憶を消してもう一度読みたい傑作ミステリの一つだが、印象が強すぎて内容を忘れるのは無理である)。
本書も読み終えた後しばらくは、心に鉛を埋め込まれたような沈んだ気持ちになった。考えても解のないことを、つい考えずにはいられない。私は、読後に嫌な気持ちや重苦しい気持ちが残る後味の悪い小説が大好きなのだが、同じような趣味の人にも、ぜひお勧めしたい作品である。
執筆:Nao
更新:11月22日 00:05