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「町工場の星」はいかにして、ピンチを好きになれたか

2017年10月19日 公開
2017年11月15日 更新

諏訪貴子(ダイヤ精機代表取締役)

出張時に必ず行く「やる気スポット」とは……

いつも笑顔を絶やさない諏訪氏は、他人からはストレスがないように見られることがあるという。「ストレスを自分の中でうまく発散させて、モチベーションに転換できているのかもしれません」と話すが、普段のモチベーションコントロールは、どのようにしているのだろうか。

「楽しいことを見つけることです。仕事でもプライベートでも、新しいことに挑戦し、思いついたことをすぐ実践するのです。

たとえば、数百人規模の大きな会場で講演を行なうときは、プレッシャーもありますが、それ以上に来場者の方に楽しんでもらえるかどうかが気になります。そこで、講演前に受付に立ってみたり、会場の空席に座って来場者の方に話しかけたりしています。『今日は何を楽しみに来られました?』『上司に言われて来ました』『何か一つでもヒントを持ち帰ってくださいね』と言うと、『えっ、講師の方ですか?』と驚きます。誰もやらないことをやって、人が喜ぶのを見るのが好きですし、それがやる気につながります」

また、夢を追いかけることも、モチベーションの大きな源だ。

「町工場に囲まれて育った私は、子供の頃から生き生きと働く職人さんたちを見てきました。今、日本の中小製造業は苦境に立たされていますが、再び日本のものづくりに活気を取り戻したい。これが私の夢です。近い未来だけを見るのではなく、遠い将来のことを考えると、『今起きていることは成長の過程なんだ』と思えて、力が湧いてきます」

自分の夢を再確認し、やる気を高めるために諏訪氏が習慣にしていることがある。地方出張の折に、城に登ることだ。

「先日も高知出張のついでに、高知城に寄りました。天守閣に登って、『天下取ったるぞー!』と叫ぶのです。周りにいる人は驚きますが、誰も私のことを知らないので気にしません」

 

ピンチこそ後で笑える。だからやる気も出る!

さまざまな困難を乗り越え、「今では逆境のときほどやる気が出る」と諏訪氏は話す。

「ピンチが大好きなんです。先ほどお話しした講演会についても、始めたばかりの頃は、『面白くない』『つまらない』という厳しい評価ばかりで落ち込みました。でも、辛口のコメントをもらうほど燃えるのです。『この人たちにいつか面白かったと言わせるぞ』って。
それで、どうすれば満足してもらえるのかを必死で考えました。二時間の講演で、何か一つでもヒントになることがあれば喜んでもらえるのではないかと考えて、盛り込む内容を絞ったところ、好評価をいただけるように。今では全国各地から講演のご依頼をいただくようになり、年間百回以上も講演をしています。ピンチのときこそ、どうすれば上昇できるかを考えるチャンスだと思います」

逆境ほどやる気が出るという、そのパワーはどこから生まれるのだろうか。

「私も初めからピンチが好きだったわけではありません。でも思い返せば、過去のピンチを乗り越えてきたからこそ『今』があり、それを笑って話せる自分がいます。次にまたピンチが訪れても、これを乗り越えればもっと成長した未来の私がいると思うと、ワクワクします。同窓会などで盛り上がるのは、『部活の練習が大変だったよね』『あのときの先生は厳しかったな』などいう話ですよね。辛いことを乗り越えたからこそ、今の自分がいる。その自覚があるからこそ、笑って語り合えるのだと思います。
地道な努力は、絶対に自分を裏切りません。そういう体験を積み重ねてきたから、ピンチのときにも努力ができる。深刻なピンチに陥っても、『自分ならなんとかできるだろう』という自信もあります。私がこんなに努力してもなんとかならなければ、世の中の企業は全部ダメだろうな、くらいに思っているんです(笑)」

 

☆ドラマ放送開始!
諏訪貴子さんの著書『町工場の娘』(日経BP社)を原作とする『マチ工場のオンナ』がNHKでドラマ化。11月24日(金)22時~放送開始です。

《『THE21』2017年10月号より》

著者紹介

諏訪貴子(すわ・たかこ)

ダイヤ精機〔株〕代表取締役

1971年、東京都生まれ。成蹊大学工学部卒業後、自動車部品メーカーのユニシアジェニックス(現・日立オートモティブシステムズ)入社。98年から2000年にかけて2度、ダイヤ精機に入社するが、経営方針の違いから2度ともリストラされる。04年、父の急逝に伴い、ダイヤ精機社長に就任。経営改革に着手し、10年で優良企業に再生。経済産業省産業構造審議会委員、政府税制調査会特別委員、「日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2013」大賞受賞。著書に、『町工場の娘』『ザ・町工場』(以上、日経BP社)がある。

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