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「町工場の星」はいかにして、ピンチを好きになれたか

2017年10月19日 公開
2017年11月15日 更新

諏訪貴子(ダイヤ精機代表取締役)

逆境ほど、乗り越えた先には思い出になる

NHKのドラマ『マチ工場のオンナ』の原作者として話題の精密金属加工メーカー・ダイヤ精機の社長・諏訪貴子氏は、先代社長だった父の急逝を機に経営を引き継ぎ、経営難に陥っていた同社で数々の経営改革を断行。リーマン・ショックや東日本大震災などの危機も乗り越え、業績を好転させた。社長就任時、専業主婦だった諏訪氏にとって、社長になるのは大きな決断だった。当初は社員からも反発された中、どのようにモチベーションを保ってきたのか。《取材・構成=前田はるみ、写真撮影=吉田朱里》

 

社長就任後すぐに「パンツスーツ」を買った理由

東京・大田区の町工場が連なる一角にある、社員数40人ほどの精密金属加工メーカー・ダイヤ精機。同社を率いる諏訪貴子氏は、先代社長だった父の後を継ぎ、低迷していた業績を見事回復させた。その経営手腕は、多くの中小企業経営者から注目され、「町工場の星」と呼ばれる。しかし、社長就任当初はモチベーションを失いそうになることもあった。どう乗り越えたのだろうか。

「今思えば、社長就任の決断をするときが一番つらかったです。父の急逝を受けて社長を引き継ぐことになったものの、当時の私は専業主婦で、夫の勤め先のアメリカに移住するつもりでいた矢先の出来事でしたから。 ただ、そこで思ったのです。一度きりの人生だから、今できることをやるしかないと。『後悔しない人生を歩むんだ』という決意が、モチベーションにつながったのかもしれません」

まず実践したのは、「形から入る」ことだった。

「男性社会に入っていくので、まずはパンツスーツを買いそろえました。気持ちが追いついていない分、形から入ることで、『自分が会社を引っ張っていかなきゃ』とスイッチが入ったのを覚えています」

 

社員の猛反発。そこで背中を押した言葉とは?

会社を立て直すため、諏訪氏は経営改革に着手。たとえば自社の四十年分の経営データを読み解くとともに、取引先に自社の強みを聞いて回った。すると、「納期に仕上げてくれる」などの対応力を挙げる取引先が多かった。そこで、強みである対応力をさらに高めるために生産管理システムの見直しやコスト削減を行ない、納期のさらなる短縮に成功。今ではこの画期的なシステムを、大田区の他の町工場も導入している。
しかし、大胆な改革は当初、社員からの猛反発に遭い「最初は毎晩ベッドの中で泣いていた」と言う。そんなときある言葉に出合い、再び気持ちを奮い立たせることができたという。

「ある人に勧められた哲学者などの名言を集めた本で出合った、『世の中には幸も不幸もない。考え方次第だ』というシェイクスピアの言葉です。その一節を読んで、目の前の霧が晴れたような気がしました。『大変』とか『苦労』とか言いますが、すべて自分で基準を決めているんですよね。何事も考えようで、『今の状態は苦労に値しない』、むしろ『他の仕事では経験できないことを経験させてもらえる自分は、なんて幸せなんだろう』と考えることで、モチベーションにつながりました。
たとえば社員の反発にも、最初は『なぜ私の気持ちをわかってくれないのだろう』と悩みましたが、裏を返せば、ぶつかってでも社員が会社に残ってくれるのはありがたいことです。真剣に会社を良くしようと思ってくれているのですから。『自分は社員に恵まれている』と考え方を変えることで、前向きに頑張れるようになりました」

 

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著者紹介

諏訪貴子(すわ・たかこ)

ダイヤ精機〔株〕代表取締役

1971年、東京都生まれ。成蹊大学工学部卒業後、自動車部品メーカーのユニシアジェニックス(現・日立オートモティブシステムズ)入社。98年から2000年にかけて2度、ダイヤ精機に入社するが、経営方針の違いから2度ともリストラされる。04年、父の急逝に伴い、ダイヤ精機社長に就任。経営改革に着手し、10年で優良企業に再生。経済産業省産業構造審議会委員、政府税制調査会特別委員、「日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2013」大賞受賞。著書に、『町工場の娘』『ザ・町工場』(以上、日経BP社)がある。

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