2017年06月23日 公開
2023年02月08日 更新
ミステリが好きだ。読み漁るようになったきっかけは、『十角館の殺人』(綾辻行人著)だった。あれほどの感動と驚きはなかった。緻密に組み立てられた文章、巧みに張られた伏線、ロジカルな帰結――。それでいて、斬新な驚きをもたらしてくれる。そのためには、物語が先にあり、その舞台で登場人物が動かされる(と、作者が意図したわけでなくとも、読者から見るとそう感じることがある)というストーリーが良い。登場人物のためではなく、「たった1行」のどんでん返しのために作られた物語が好きなのだ。
逆に、年々苦手になるのが恋愛小説である。恋愛小説は「登場人物の感情ありき」だ。その点から、小説というジャンルの中ではミステリの対極にあると個人的に思う。
とくに、一時の感情に流されてくっついたり離れたり、貪り合うように相手を求めたと思ったら激しくケンカをし始めたり、登場人物の感情で物語が動くような、抒情的すぎたり情熱的すぎるストーリーはつらい。そういう物語は登場人物に共感してこそ面白く読めるはずだが、自分にはそんな燃えるような激しい恋など縁がないから、それができないというのも大きい。
しかしながら、この本は違った。上記の条件に見事に当てはまっているのに。
しかも、描かれているのが私には経験のない、女性同士の恋愛であるにもかかわらず。
本書は言葉で作られた芸術のように感じた。これは著者の筆力のなせる技だろうが、とにかく文章が読みやすく、流れるように入ってくる。また、人物描写が素晴らしく、登場人物に感情移入せずにはいられなかった。主人公たちのように、相手の容姿も収入も立場も年齢も世間体も何もかも関係のない、魂から求め合うような恋愛をしている人が、この世にどれほどいるだろうか。ふたりの恋の行方を見届けたくて、一気読みしてしまった。読み終えると切なさがあふれてきた。
愛しすぎて、求めすぎて哀しくなる。いっそ失ってしまえばいいと思いながら、喪失や別離を予想して怖くなる。平穏を望みながら、束の間の快楽に身を委ねたくなる。そんな複雑な感情も、痛いほどに理解できた。いや、理解はできていなかったのかもしれないが、少なくとも彼女たちがそういう言動を選択するのはわかるような気がした。
ただ、本書を読んで「こんな恋愛がしたい」と思えなかったのもまた事実。なぜなら、彼女たちの葛藤もつらさも痛みもすべて文章を通じて流れ込んできたから。こんなに苦しくて面倒くさいものには、やはり私は縁がない。
執筆:Nao
更新:11月23日 00:05