2017年07月11日 公開
2023年04月06日 更新
以上のトレーニングをする際の注意は、「休み休み行なうこと」。頑張り続けるのではなく、休息を挟むことが重要です。
これまでは、人間が盛んに思考しているときは脳も活発に動いており、休息中は脳も休んでいる、と考えられてきました。
ところが、ワシントン大学のM・レイクル教授らの最新研究ではそれと相反する結果が出ています。何もせずボンヤリしているときの脳の活動量は、活発に活動しているときとそう変わらない量であることがわかったのです。
その間に脳が何をしているかと言うと、活動中の思考を整理し、次に何をすべきかを準備しているのだそうです。この働きを、「デフォルト・モード・ネットワーク」といいます。
難しい問題を解こうと長時間悪戦苦闘してもムダだったのに、一晩眠って起きたら突然解決策がひらめいていた――ということを一度は経験したことがあるでしょう。これもデフォルト・モード・ネットワークの働きの結果だと考えられます。
ですから、頭を使う作業は長時間続けず、疲れれば途中で切り上げること。そうすることで、肉体的・精神的には休みながらも、脳は自動的に思考を整理してくれるのです。
日々の働き方も、配分を考えることが大切。一日中、絶えず全力を注ぐのは禁物です。その配分を考える際に参考になるのが、「働きアリの法則」です。
アリの活動を観察すると、よく働くアリは二割、ほどほどに働いているのは六割、あとの二割のアリはまったく働いていないことがわかっています。そこで、一見役立たずな二割を取り除くと、残されたアリのうち、やはり二割が働かなくなるのだそうです。これはアリにとって、この人員配分がベストな状態だということを意味します。
人の脳も同じです。一日のうち真剣な仕事に割く時間は二割、雑な仕事には六割、そしてあとの二割は「デフォルト・モード・ネットワーク」に充てましょう。
脳を健康に保ち、最大限に活性化させるには、生活習慣にも気をつけましょう。
その際の最重要キーワードは「時計遺伝子」。時計遺伝子とは時間に関係する遺伝子で、身体を構成する六十兆個の細胞のほぼすべてに内蔵されています。
時計遺伝子は約25時間=およそ1日の長さで一巡する「概日リズム」を刻んで動きます。ホルモン分泌、血圧や体温調節などの生理活動も、このリズムに則って行なわれます。
そのサイクルに則り、毎日規則正しいリズムで生活することが大切です。起床と睡眠、食事のタイミングはできるかぎり一定にしたいところです。
ストレスの軽減もはかりましょう。疲労や痛み、暑さや寒さ、空腹感などのストレスは集中力を半減させます。怒りや苛立ちなどの感情も脳の活動を低下させる元です。怒っている人を観察すると、何度も同じ言葉ばかり繰り返して言っていることに気づくでしょう。これは思考が堂々巡りになっていることの表れです。正確に物事を把握できず、知識や記憶にもバイアスがかかります。感情にとらわれそうなときは作業をストップして場所を変えたり、現状を紙に書き出したりして、理性を取り戻す工夫をしましょう。
そうして環境を整えた上で、脳の活動の「ピーク」を意識しましょう。脳も時計遺伝子の働きによって、一定の波を描いて活動します。その中でもっとも脳が活性化する時間に、前述の「2割の思考力を使う仕事」をするのがコツです。
そのピークがいつ来るのか、どれくらい持続するのかは、人によって違います。自分がこれまでに、複雑な仕事をして多くの成果を得たのはどんな時間帯だったかを振り返ることで、ある程度つかむことができます。わからない場合は、簡単な日々の記録を数週間つけてみると、「早朝は頭が冴える」「午前中に調子が良くなる」などの特徴がつかめるはずです。
脳をコントロールしパフォーマンスを最大化するスキルこそ、ビジネスマンとしての最大の武器。これをパッケージ化された記憶として刻めば、さらに充実した仕事ができるでしょう。
《『THE21』2017年7月号より》
更新:11月22日 00:05