2017年05月12日 公開
2023年10月04日 更新
郊外の豪華な邸宅で暮らす、ジャック&グレース夫妻。ジャックは俳優のようにハンサムで優しく、物腰も完璧で、職業は弁護士。しかも、ドメスティック・バイオレンスに苦しむ女性を助ける仕事を数多く請け負っている。料理上手のグレースは、見た目も味も完璧な手料理で、ジャックの友人をもてなす。誰がどう見ても「理想の夫婦」の二人だったが、実はグレースはこの「完璧な家」で「囚人」同然の毎日を送っていた……。
物語は、グレース宅でのホームパーティの場面から始まる。料理を失敗しないように、会話に粗相がないようにと、不自然なくらいに神経質になるグレースの心理描写。「わかった、この俳優のようにハンサムで弁護士だという『完璧な夫』はきっと、モラルハラスメントをしているに違いない」と考えた。
しかし、物語が進むにつれ、モラハラどころではない異常者であることがわかる。異常者にもかかわらず、その頭の良さから用意周到に、周囲に自分をまともな人間と思わせ、グレースを逃がさないようにする。グレースは彼の手から逃れられるのか、はたまた最悪のバッドエンドを迎えてしまうのか。ページをめくる手が止まらず、一気に読み終えた。
サイコパスは頭がいいという話を聞いたことがあるが、自分の周りにもこんな人がいるのではないかと思わされる、恐ろしい話であった。
私は小説が大好きだが、翻訳本はあまり好んで読んでいない。訳文だとどうしてもその世界に入り込めなかったり、文化が違って登場人物に感情移入できなかったりするからだ。しかし本書に関して言えばまったくそんなことはなかった。翻訳がうまい、というのもあるのだろうが、リアルにその怖さを想像できたからだろうか。久しぶりにこんなに面白い翻訳小説を読んだ。他にも著者の本をと思ったのだが、何と本作が処女作と知って驚いた。今後も注目したい作家である。
執筆:Nao(「小説」担当)
更新:11月22日 00:05