2017年05月30日 公開
組織を動かすためのコミュニケーションにも、鈴木氏ならではの習慣がある。とくに心がけているのが「繰り返し話す」ということだ。
「社長就任後に最も力を入れたのは、組織の方針や価値観を社内に浸透させること。それらを端的なキーワードに落とし込み、何度も繰り返し言い続けることを心がけています。
たとえば価値観に関しては、私が社長に就任してから行動規範を制定しました。これは創業当初から脈々と培われてきた価値観を明文化したものです。主な内容を紹介すると、『仕事の優先順位を決めて、新しい挑戦・創出』『挑戦する人を応援し、結果が出れば賞賛する』などです。ここで出てくるキーワードを、毎月1回の朝礼や、半期に1度の全体会議でのスピーチに必ず取り入れるようにしています」
繰り返し伝えることは重要だが、それだけで社員の習慣まで変えるのは難しいとも指摘する。
「行動規範を本気で浸透させるには、それを『評価』と連動させることが重要です。評価も行動規範を基準にするという姿勢を見せなければ、人の意識はなかなか変わりません。たとえば社長賞では、行動規範をいかに実践したかを最大の評価基準にしています」
社長就任後、急速に組織を変えていったイメージがある鈴木氏だが、実際には価値観の浸透を待ってから、じわじわと組織変革に着手していったという。
「いくら組織の形を変えても、価値観が共有されていなければ、形だけになってしまうからです。
たとえば私たちは今、さらなる成長を目指して、『ONEエステー』という新たな方針を掲げています。その一環として、これまでバラバラに動いていた国内営業と海外営業を統合し、国内営業での成功事例を海外営業にも水平展開しやすい体制に改めました。非常に大きな変更ではありますが、ここに至るまで、会社が目指す方向や、それに対する私自身の強い想いや価値観をくり返し社員に語り続けてきました。だから今回の変更に関しても、『この部分を社長は変えたがっているだろうな』と、皆うすうす感じとってくれていたのではないかと思います」
社長の方針に沿って組織が動き、結果が出たら、その結果を社員と共有する。これも鈴木氏の社内コミュニケーションにおけるこだわりだ。
「結果を共有する仕組みとして、2年前から自らが行う『社内決算説明会』を始めました。これは単なる財務会計の報告ではなく、数字の裏にある活動を分析し、計画を達成した、あるいは未達だった理由を社内で共有するためのものです。それによって社員が自分たちの貢献を実感することが、とても重要なことだと思っています。
さらに、自社の決算だけでなく、日本全体や日用品業界、流通業界の状況についても私が説明します。『今期が黒字でも、3年先、5年先のためには、まだ努力すべきことがあるよね』と。こういったことを、新入社員でも理解できる言葉で伝えています」
良い結果に対しては、徹底的に褒めまくる。これも、鈴木氏が大事にしている習慣だ。鈴木氏の笑顔は、社員を労い、褒めるためのものでもある。
「当社の社員は会社と仲間が好きで、自分たちの企業文化や理念に誇りを持っています。それはとても素晴らしいこと。それに対して、私から社員の皆へ感謝の言葉をてらいなく口に出して伝える。これがとても大事だと思っています」
《取材・構成:前田はるみ 写真撮影:永井 浩》
《『THE21』2017年5月号より》
更新:11月22日 00:05