2017年03月31日 公開
「僕」が恋をした相手は、人形だった――。エキセントリックな天才作家・如月まゆらは、自作のその人形を、僕の目の前で破壊してしまう。しかしある日、その人形に生き写しの女性と出会い……。
本書を読み終えてふと思い出したことがある。以前、仕事で取材したある精神科医の方から「あなたは球体関節人形のような雰囲気がある」と言われたことだ。ちょっと変わった褒め言葉と受け取ったのだが、今思えば、私の内なる「異次元の美への憧憬」を見抜かれていたのかもしれない。
フィギュアやドールの持つ陶器のような肌や完璧なバランスの顔、均整のとれたプロポーションに憧れる。もしも願いが一つ叶うなら、永遠に、人形のように美しい外見が欲しい。『悪魔の花嫁』(原作:池田悦子、作画:あしべゆうほ)という漫画に、仕掛け時計のからくり人形にされてしまう女の子の話があったが、不老不死ならそれも良いのではなかろうかと一瞬、思ったものだ(意識を持っているのに永遠に強制的に踊らされ続けるのは、やはり恐ろしいとすぐに思い直したが)。
そんな私にとって本書は、タイトルや装丁、「人形に恋をした」というキャッチコピーなど、読む前から惹かれるものがあった。作中に登場する如月まゆらが作る人形の容姿を想像し、どんなにか恐ろしいほどの美しさを持つのかと、そのイメージを楽しんだ。その特徴から、この人がモデルだろうかと思われる人形作家が実在することもあり、イメージは膨らむばかりだった。人形の持つ二次元と三次元の間の美しさに憧れる人には、その描写だけでもぜひ勧めたい1冊である。
物語にも耽美な内容を期待したのだが、意に反して登場人物たちは俗っぽさも併せ持つ血の通った人物として描かれていた。しかし、「人形」ではなく人間同士の物語として面白かったことと、何よりミステリとしての完成度の高さゆえ、非常に印象に残っている1冊である。
執筆:Nao(「小説」担当)
更新:11月23日 00:05