2017年04月13日 公開
2023年04月06日 更新
「させていただく」を多用する人もよくいますが、たとえば、「今の会社に何年お勤めですか?」と聞かれて、「15年勤めさせていただいております」と答えるのは間違いです。話している相手ではなく、自分の会社を高めてしまうことになるからです。「15年勤務しております」が正しい。
「企画させていただく」なども、場面によってはふさわしい言い方ではありません。「させていただく」は、相手から要請があったり、許可や厚意を得たりして、何かをするときに使う言葉だからです。結婚式の招待状の返信に「出席させていただきます」と書きますが、これは依頼や厚意を得たと捉えられるので適切なのです。
銀行の窓口などでよく聞く「ここにお名前を書いていただいていいですか」も気になる表現です。「いいですか」を「よろしいですか」に変えても、まだ違和感が残ります。それは、この場面では「書かない」という選択肢がないからです。「~していいですか」は相手に許可を求める表現のため不自然です。ここは「お名前を書いていただけますか」「ご署名願います」でいいのです。
実際には、長く話をしている中で1カ所や2カ所くらい敬語を間違えても、それほど相手は気にしないかもしれません。しかし、敬語以外のところでも間違った言葉を使ったうえに、敬語まで間違えると、印象が悪くなってしまいます。言葉使いを間違える箇所を減らすためには、敬語以外の部分で間違った表現をしないようにすることも重要です。
難しい問題なのは、間違った意味で覚えてしまっている人が、正しい意味で覚えている人と同じくらい、あるいはそれ以上にいる言葉の使い方です。
たとえば、「煮詰まる」を「行き詰まる」の意味で使う人がよくいますが、「結論が出る段階にまでなった」というのが正しい意味です。
「失笑」を「笑いも出ないくらいあきれる」の意味で使う人も多くなっていますが、本来は「こらえきれずに思わず吹き出す」というのが正しい意味。
これらの言葉は、正しい意味で使っても、相手が間違った意味で捉えてしまって、認識のズレが生じる可能性があります。ですから、自分は正しい意味を知っておき、そのうえで、誤解される恐れがあると感じたら別の言い方を探すなどの工夫が安全策でしょう。
いかなる場でも「他にふさわしい言い回しはないか」と常に考えることが、正しい言葉使いをするための基本です。漠然と「皆が使っているからこれでいいだろう」と考えるのではなく、まずは正しい表現を知ること。それでこそ、カジュアルな場ではカジュアルに、フォーマルな場ではフォーマルにと、場面に応じた言葉の使い分けができるようになります。
場面と相手に合わせて、いかに言葉を的確に選べるか。最終的に必要なのは、その判断力です。それは相手への気遣い、つまり、本当の意味での「敬意」につながるでしょう。
《取材・構成:林 加愛》
《『THE21』2017年4月号より》
更新:11月10日 00:05