2017年04月26日 公開
場や相手に合わせて、柔軟に話し方を変えていく。しかし、どのような手法を取る場合も、根本にある姿勢は一貫している。
「心底『伝えたい』と思う内容を自分の中で明確化することが何より重要です。思いが込められた話は、たとえ訥々としていても相手の心に響くものです。
ただ一方で、そうした思いは『簡単には届きづらい』面も持っています。
コミュニケーションというものは、逆三角形型の階層でできています(図2参照)。表面的コミュニケーションに比べ、本音のコミュニケーションが通じる相手は限られる。さらに心の底から出る魂レベルの言葉となると、ごく少数です」
では、そうした強い思いを相手にわかってもらいたい場合は、どうしたら良いのだろうか。
「大事なことほど繰り返して伝えるしかありません。とくに、大勢に同時に伝えるのは難しく、一度言っただけではまず理解されません。ですから、社員に社是や経営理念を語る際には、切り口を変えて何度も話しています。
さらに、それが伝わったかどうかも、折に触れて確認するようにしています。たとえば、話の後、相手に内容を繰り返してもらう、といったことです。ここまでして初めて、思いは伝わると思っています」
同時に、発した言葉が押しつけにならない心配りも忘れない。
「好む好まざるにかかわらず、上司からの言葉、経営者からの言葉は強く伝わるものです。こちらが軽く言ったことが絶対的な命令と受け止められることも。そこで、伝えた後は『これは指示』『これは単なる提案』と言い添えるのが習慣です」
こうした話し方の根底にあるのは、「コミュニケーションは双方向であるべき」という信念だ。
「何度も繰り返し、その都度理解を確認する手法は正直、時間がかかります。しかし、組織の成長にはそれが欠かせません」
リーダーのコミュニケーションのあり方を示すものとして井上氏が挙げるのは、名著『ビジョナリーカンパニー』だ。
「この本ではリーダーの水準を五段階で解説しています。『第四水準』はいわゆるカリスマリーダー。圧倒的求心力で組織を率いるタイプですが、本人が退いた後に組織が弱体化するリスクが高い。対して『第五水準』のリーダーは、自らが退いた後も組織が滞りなく運営できる状態を作る。私が目指すのは後者であり、話し方はそれを反映したものです。
そのためにも、語ることと聞くことが同体となったコミュニケーションが必須。私にとって、社員との双方向でのコミュニケーションは手間ではなく、『投資』なのです」
《『THE21』2017年4月号より》
更新:11月22日 00:05