2017年04月26日 公開
リクルートを経て起業し、国内最大級の不動産情報サイト「HOME’S」などで知られるLifull(※今年4月に「ネクスト」から社名変更)を率いる井上高志氏。自らの力で新しい市場を切り開き、ビジネスを成功させた井上氏の言葉には説得力がある。しかし、最初から上手に話すことができたわけではなく、当初は素晴らしいビジネスの構想もうまく伝えることができなかったという。どのように伝える技術を磨いたのか。《取材・構成=林加愛、写真撮影=まるやゆういち》
株式会社Lifullの創業社長・井上高志氏。説得力あふれる語り口で多くの顧客を引きつけ、社員を牽引してきた井上氏だが、元来「決して、話し上手ではなかった」と語る。
「少年時代は引っ込み思案で、人目を気にするタイプでした。当然、無口で押しも弱かった。しかし人目を気にする性格は、実は『相手の考えていることがわかる』という強みにつながることに、ある時点で気づいたのです。これは言い換えると、自分を客観視することができるということでもあります。他者の思いがわかれば、その視点を借りて、自分がどう語りかけるべきかがわかるのです。
ですから、まずは相手を観察。表情や反応からその人の好むコミュニケーションスタイルをつかめば、それにフィットした話し方ができるのです」
その際に意識しているのは、「ソーシャルスタイル理論」に合わせたアプローチだ。
「論理的なアナリティカルタイプに、感情に訴える言い方をしても通じません。数字やデータを使って分析的に語るのが正解です。逆に、感情豊かなエクスプレッシブタイプなら、その人が望むような未来をダイナミックに語れば心に響くでしょう。
ちなみに、私自身は本来、『エクスプレッシブタイプ』だと思っています。しかし、経営者としての表現スタイルは、会社の成長に合わせて変化してきました。
創業当時は『素』に近い、エモーショナルな話し方をしていました。しかし従業員が三十人を超えてからは、より正確な共通理解のために、データやフレームワークを使った論理的表現を心がけるようになりました。さらに規模が大きくなった今は、分析的データよりもさらに大きなビジョンを語る必要を感じ、再びエモーショナルな表現を取り入れつつあります」
まず、相手のタイプを見極め、それに合わせたアプローチを心がける。そのうえで、言葉選びなど、テクニックとしての工夫も凝らしている。
「まず大前提として、誰にでもわかりやすく話すことが大事です。私の場合は、『妻や息子にも理解できるように』を目安にしています。子供が聞いても理解できるくらい、平易な言い回しを基本とするのが良いでしょう。
また、イメージが明確に描けるよう、比喩を用いることもあります。
たとえば、『世界がもし100人の村だったら』という絵本は、比喩を効果的に使った典型例です。『水と食べ物と仕事を持つ人は百人のうちの一人』と伝えると、その一人に該当する日本人は自然と、残り九十九人に思いを馳せるでしょう。『世界中には、水と食べ物と仕事がない人もたくさんいる』と事実だけを言われるよりも、ずっと心に響くと思いませんか。
言葉選びに関しては、『明・元・率』を心がけています。つまり、明るく元気で、率直な言葉を使うということです。
この逆は『暗・病・反』、つまり『無理だ』『疲れた』『これじゃうまくいかないよ』などの暗くて不健康で反抗的な言葉。逆境ではこうした言葉が出がちですが、『こんな修行モードを経験できるなんて貴重な機会だ!』と言えば、前向きになれますね」
こうした感覚に訴えるアプローチと同時に、データによる裏づけも重要視する。
「数字や実例などの客観的データは納得感につながります。写真や図を添えて可視化することも効果的でしょう」
更新:11月21日 00:05