2017年02月11日 公開
2022年12月15日 更新
社会人になってからの勉強は、学生のときとはいろいろと条件が異なる。勉強に使える時間が少なかったり、暗記がなかなかできなくなっていたり、そもそも勉強しなければならない「目的」として、学んだことをアウトプットする必要もあったりするだろう。哲学者の小川仁志氏は、大人が何かを学ぶときには、「考える」ことが不可欠だと話す。教養から資格試験まで幅広く使えるその方法論について詳しくうかがった。《取材・構成=前田はるみ、写真撮影=まるやゆういち》
勉強といえば受験勉強のイメージから、いまだに「暗記」中心の勉強をしている人は多いのではないだろうか。「大人になってからは、思考を軸に置いた勉強をすべき」と話すのは、思考法や勉強法など多数の著書がある哲学者の小川仁志氏だ。
「私たちが受けてきた教育は、8割くらいが暗記でしたが、大人になれば勉強法を変えるべきです。なぜなら、丸暗記ができなくなってくるからです。私も大人になってから司法試験に挑戦しましたが、暗記中心のやり方ではどうしても覚えられず、挫折した経験があります。
学生時代の勉強との大きな違いは、大人には勉強する明確な目的や問題意識があることです。教養としての勉強も資格試験の勉強も、勉強する目的は仕事での実践です。
たとえば、40代くらいになって管理職になると、人や組織を動かさなくてはなりません。『なぜあの人は動いてくれないのか?』という問題に直面したとき、それをなんとかしようとするところから大人の勉強は始まります。
そこで人や組織を動かすための方法論を暗記しても、すぐに忘れてしまったり、例外的な場面では応用できなかったりします。何かを覚えて『知っている』ことよりも、学んだことを実際の問題解決にどう生かすかを『考える』ほうが結果的により早く習得できる――これが大人の勉強です」
では、大人の勉強ではどのように「考える」と良いのだろうか。考えるためのツールとして哲学の思考法を紹介してもらった。哲学とは、考えること自体を学問にしたものだが、中でも「疑う」「削ぎ落とす」「批判的に考える」「根源的に考える」「まとめる」の5つの思考が大人の勉強に活きてくるという。
「『疑う』とは、それまでの固定概念を捨て、さまざまな角度から情報を精査することです。そして、不要な情報を『削ぎ落とす』――必要な情報だけを整理することが求められます。
次に、『批判的に考える』、つまりその情報が本当に正しいかを検証します。
これらの思考法は、たくさんの情報が容易に手に入る現代において、本当に役立つものを見極めるために不可欠です。偏った考え方に固執するのではなく、多角的に知識を吸収する前提として役立つでしょう。
その次の『根源的に考える』は、ゼロから考え直すこと。『なぜこうなるのか』と根本的に考え直してみることです。大人の勉強にとくに重要なのは、この思考法かもしれません。なぜなら、日本の学校教育ではこの視点が抜けており、『そういうものだから』と割り切って習ってきたことが多いからです。
これに慣れてしまった人は、与えられた知識を表面的になぞるだけで満足してしまい、考えることが苦手な大人になってしまっています。しかし、『根源的に考える』ことは物事の本質を探究すること。あらゆる学習において、理解と知識を深めるために必要な考え方です。興味関心も深くなり、勉強が楽しくなる効果もあるでしょう。
最後の『まとめる』は、自分の考えを書き出して意識化することです」
この5つの思考を活用しながら勉強や読書をすることで、教養が養われていく。一方で、資格試験や英語などの実用的な勉強の場合にも、この考え方は有効だという。
「資格試験の勉強の場合でも、丸暗記するのではなくまず『考える』アプローチを取ってみることが、根本的な理解と学習のモチベーションアップにもつながると思います。
すべての範囲をこのように深く考えることは難しいかもしれませんが、基本の知識についてだけでも背景や原理まで深く考え理解していれば、応用問題についても、論理的に考えることで答えを導き出すことができるはずです」
更新:11月22日 00:05