2015年09月04日 公開
2023年05月16日 更新
近年もニーチェがちょっとしたブームになるなど、「哲学者」の言葉は、場所や時代を超えて多くの人に影響を与え続けている。ただ、誰もが知っている有名な言葉でも、実はその真意を理解できていないことも多いもの。哲学者の小川仁志氏に、「考える力」を高めるために有用な言葉を選んでいただくとともに、その言葉の解説をしていただいた。
哲学者の名言と聞くと、一見難しそうに思われるかもしれません。確かに表現は抽象的だし、難解な言葉が使われることもあります。でもそれは、哲学者の言葉が思考のエッセンスを表現したものだからです。
哲学とは、言葉によって物事の本質を探究する営みです。物事の本質というのは、いつでもどこでも当てはまる普遍的なものです。したがって、長々とした説明ではなく、エッセンスとして端的に表現されます。
ここではそんな哲学の名言の中から、比較的わかりやすいものを選び、現代人の日常生活や仕事の糧に活用できるよう解説を加えました。ぜひどれか一つでも、座右の銘として心の中に刻んでおいていただけると幸いです。
(プラトン『ソクラテスの弁明』)
これは「無知の知」として知られる言葉で、哲学の父と称されるソクラテスが語ったものを、弟子のプラトンが『ソクラテスの弁明』の中で書き伝えました。
わかりやすく言うと、知らないと言える人のほうが、知ったかぶりをするよりも賢いという意味になります。
もともとソクラテスは、ただの凡人だったのですが、ある日、友人を介して、「ソクラテス以上の知者はいない」という神のお告げを聞きます。そこでそれが本当かどうか確かめるために、賢いと言われていた人たちに質問して回ったのです。ところが、賢いと言われていた人たちは、実は賢いふりをしているだけで、問い詰めていくとみな、答えに窮してしまいます。
それでソクラテスは悟りました。知ったかぶりをするより、いっそ知らないと割り切ったほうが新しいことを知るチャンスが増えると。これが「無知の知」の意味するところです。
私たちはどうしても知ったかぶりをしてしまうものです。ところが、それは二つの意味でマイナスです。
まずその後の話がわからなくなり、ついていけなくなってしまいます。もう一つのマイナスは、新しいことを知る機会を逃してしまうという点です。その場で聞かないと、なかなかあとで調べることはしないものです。そして次にまた同じ失敗を繰り返すのです。
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の損。ぜひみなさんも勇気を出して一言、「それはどういう意味ですか?」と聞いてみましょう。その積み重ねが、あなたを賢者に変えてくれるはずです。
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更新:11月04日 00:05