2016年08月16日 公開
2023年01月30日 更新
日々、何十、何百ものアイデアがブレストの場で生み出され、その中でとりわけ輝いているものが実行に移されていく。
直近の例で岩田氏が強く記憶しているのは、シリーズ累計600万ダウンロード超の人気ゲーム『ぼくらの甲子園!』での試みだった。
「高校球児になりきって甲子園を目指すゲームなのですが、2作目にあたる『熱闘編』を、新シリーズを展開していることもあり、配信終了することになったのです。スマホゲームはひっそりとクローズすることが多いのですが、『有終の美を飾れる方法はないか』と、ブレストを行ないました」
そこで出たのが、「『熱闘編』との別れを惜しめる場を作ろう」というアイデアだった。それをもとに、『贈る言葉』と題された掲示板サイトが開設された。
「その結果、想像以上の反響がありました。多くの方がアクセスし、思い出を語り、元仲間やライバルにメッセージを残したのです。
それは通常の配信終了では起こり得ない、温かい交流でした。寂しさ、感謝、喜びといった感情を最後に共有する場を作れたのは、とても嬉しいことです」
面白さと、温かな人間味をあわせ持つサービス。それを生み出したブレストの場も、「面白がる精神」と「信頼関係」で成り立っている。
「一般的に、ブレストでは『否定はご法度』と言われますね。でも僕たちの場合、『それいいね!』の他に、『それ微妙かも』『こうしたほうが良くない?』と言うこともけっこうあります。とはいえ、それで人間関係がこじれる心配はありません。大事なのは、他人の意見に『乗っかる』精神。つまり、積極的な関心と反応を示す姿勢です。それをまっすぐに示せば、言葉が否定であれ肯定であれ、信頼関係は揺るぎません」
緊密な人間関係のもと、全員がリラックスして意見を言いあう。若い社員が先輩や上司に遠慮するといったことも皆無だ。
「僕も新人のときから遠慮とは無縁でした。そして今、後輩たちも僕にまったく遠慮しません(笑)。おかげで、とても助けられています。キャリアを重ねると、『こういうときは、こうすればいい』と仕事がワンパターン化しがちです。そんなときに、20代の若い社員が良い意味での『素人っぽさ』あふれるアイデアを語ってくれると、良い刺激になりますね」
互いに認めあい、刺激しあう中で、さらに発想が膨らむ。その経験を日々、味わえていることがありがたい、と岩田氏。
「実際の業務やプロジェクトで成功体験は味わうのは、そう簡単ではありません。でもブレストなら、毎日盛んに『それいいね!』と言いあえて、良いアイデアが出たときには、その声がいくつも重なるという、最高の瞬間を味わえます。それは、全員が高揚感を共有できる『プチ成功体験』。この瞬間を身近に経験できるおかげで、楽しく、意欲を持って仕事に向かうことができるのです」
《取材・構成:林 加愛 写真撮影:まるやゆういち》
《『THE21』2016年8月号より》
更新:11月25日 00:05