2016年07月25日 公開
2016年07月27日 更新
――1年に1ブランドとは、どういうことでしょう?
長沼 当社のコンセプトの1つに、“1ブランド1商品”があります。1つの店舗で販売する商品を1つに絞るということです。なので、BAKE CHEESE TARTで販売するものは焼きたてチーズタルトのみ、クロッカンシュー ザクザクで販売するのはシュークリームのみです。このブランド、つまり新しい商品を販売する専門店を1年に1つずつで増やしていこうと思っています。
“1ブランド1商品”は、商品を絞ってイメージを明確化することもありますが、根底には、幼い頃から父から教えられてきた「美味しいお菓子を作る3つの原則」があります。それは、①フレッシュ ②手間をかける ③原材料にこだわるということです。この3原則を突き詰めていくと、1ブランド1商品という業態に行きつきました。
まず、店の混み方によって製造スピードを調整できるので、常に出来立てに近いフレッシュな状態で商品の提供ができます。お客様の目の前で商品を完成させ、提供できるようファクトリー一体型のライブ感あふれる店舗になっています。
また、手間をかけるとは、お菓子を作るプロセスを省かないということ。チーズタルトでいえば、一度生地を焼いてからムースを入れ、さらに焼くといったひと手間を加えています。種類が多いとそれだけやることが増えてしまいますが、1つの商品に絞ることで、一つひとつ丁寧に惜しまず手間をかけることができます。
そして、作業が効率化され、人件費もかからなくなることで、良い材料を揃えるための投資ができるようになります。
当社の商品のベースはすべて北海道にある、きのとやの直営工場で作られており、原材料のほとんどを北海道で仕入れています。たとえば、北海道の牧場でその日の朝に採れた牛乳を使ってカスタードクリームが作られており、その品質は折り紙つきです。そして、ゆくゆくは原材料をOEM化し、その商品に合った牛乳や小麦粉を牧場や農家の方に作ってもらうようにできればと思っています。
――OEM化とはどういったことでしょうか?
長沼 既存の商品をより美味しくしたり、新商品を作るために、それに合った牛乳や小麦粉などを栽培したり育ててもらうことです。
これまで、お菓子の美味しさは感覚的なもので、パティシエの力に依存していたところがあります。でも、我々は美味しさにはきちんとした理由があると思っている。それを科学的な観点から立証するため、今年の3月に「BAKE Labo」を立ち上げました。
たとえば、サクサク感を出すためにはグルテンネットワークを下げればよく、そのためには小麦粉のタンパク質を下げる必要がある。では、それはどれくらいか、ということを数値化して検証していくのです。他にも、最も卵が美味しい時期の分析や、ABテストを用いた原材料の選定など、データから仮説を立てて美味しさを追求していく。感覚の世界だったものを見える化し、美味しさに理由をつけていくのです。
そうすることで、最適な原材料をどう作ればよいのかわかってくるはずで、それを実現するのが当社の次のミッションだと考えています。
――お菓子を科学的に考えるとは新発想ですね!
長沼 はい。美味しさには答えがあると思っています。分析をして正しい答えを導き出せれば、必ず美味しい商品ができるはずです。
商品の企画開発をするメンバーも、パティシエ出身者はいません。こういうものが売れるんじゃないかと新商品を考え、仮説を立て、そのイメージをきのとやのパティシエたちと一緒にお菓子として作り込み、商品化していく。これまでにないやり方で製菓業界に新しい風を吹かせたいと思っています。
――今後、御社が目指すところとは?
長沼 商品の開発や製造はもちろんのこと、原材料の生産や、流通の仕方など、まさに今、仕組みを作っているところです。これにより、製菓業界だけでなく、原材料を生産する第一次産業も変わっていくと思います。
オンラインの可能性もまだまだあります。今はサービスを中断しているClick on Cakeもいずれ新しいかたちで始められたらと思っています。きのとやが北海道で行なっているサービスを東京でも展開していきたいです。
リアル店舗でもオンラインでも、“お菓子のスタートアップ”として新しいビジネスモデルを構築し、イノベーションを起こしていきたいですね。
《写真撮影:まるやゆういち》
更新:11月24日 00:05