2016年03月27日 公開
2023年07月03日 更新
神田 しかも、仕事をこなすテクニックやITが発達することで、日常業務レベルではどんどん忙しくなっています。すると部下はこれを「上司のせいだ」と、上司もまた「部下のせいだ」と考え、チームの亀裂がさらに広がる。ある意味、ツールが導入されればされるほど、渋滞が起こるということでしょう。
シーリィ 組織イノベーションを研究する中で、わかってきた事実があります。それは、最も成功しているマネージャーは、自分の組織のあらゆる部門に、いつでもアクセスできるというコミュニケーション力を持っている、ということです。何か問題が起こったら、デスクで「どうしよう」と悩むのではなく、すぐに外に出ていろいろな人とコミュニケーションを取り、すばやく答えにたどり着くのです。
神田 よくある誤解は、グループウェアを導入すれば交流が活性化されるということ。ただ、その根本となるコミュニケーションのルールを誰かが決めなければ、ツールはなんの役にも立ちませんよね。ただ、それを中間管理職の人が会社に提言しても、なかなか受け入れられないかもしれません。
シーリィ 新しいアイデアを導入する人は、やはり最初は一匹狼、異端者の扱いを受ける覚悟が必要でしょう。ただ、ここでも先ほどの「ソリューションフォーカス」が重要。現状を把握し、ほんの小さなステップを踏み出すことで、必ず何かが変わります。それは上司への一本の電話かもしれないし、会議の開催要請かもしれないし、同僚へのフィードバックかもしれない。しかしその小さな何かによって、物事が開けてくるのです。
神田 さらに言えば、コミュニケーションを社内に限定する必要もない。社内でいかにスムーズに仕事が進んだとしても、社外との間に渋滞が起きてしまえば同じことです。
MITメディアラボのイダルゴ教授が、『Why information grows』という本の中で、「パーソンバイト」という概念を提唱しています。これは一人の人間の情報容量のことで、世の中の情報が増え続けるのに対し、パーソンバイトには限りがある。それを最大化するためには、個人同士をつなぎ合わせるしかない、という考えです。
時間管理についても同じだと思います。たった一人で時間管理をしようとするのは、道の真ん中に車を止めて、かえって渋滞を引き起こしているようなもの。一緒に問題解決できる人を社内外に見つけることが先決です。
シーリィ 組織内部と個人内部、同時に解決を図らなければならないでしょうね。そしてその際、大きな役割を担うのが、いわゆるミドルマネージャーだと思います。
私が実際に体験した、米ハネウェル社のあるマネージャーの事例があります。この会社では、経営陣が部下にデータ作成を頻繁に命じていました。それに対してあるマネージャーが、「この業務は我々の職務内容に入っていない。今後は外部に発注するか、我々の給料を増やしてほしい」と宣言したのです。彼は、上層部からの予定外の要求こそが、業務を滞らせている最大の原因だと気づいたのです。
神田 まさに物事を俯瞰的に見ることができたからこそ、こういう行動が取れたのでしょう。ただ、一般的には中間管理職は、苦労の多い立場だと言われていますね。
シーリィ 確かに中間管理職は上下から挟まれる立場で、ストレスも多いでしょう。でも、これはサッカーで言えば、ミッドフィルダーのポジション。試合の状況を最も的確に把握でき、ゲームを動かせるのも彼ら。つまり、中間管理職こそが「仕事の渋滞」を解消する力を持っているのです。
神田 私は、忙しさにも二つあると思うのです。やりたいことが多すぎて時間が足りないという忙しさと、目先のことに追われてやりたいことができない忙しさ。問題なのはもちろん、後者です。
そういう人はまず、これは一人では解決できない問題だと認識すべきだと思います。能力の問題ではなく、時代的にどうにもならないと割り切って、周りの人と一緒に問題解決を図っていってほしいですね。
(取材・構成:THE21編集部、写真撮影:永井 浩)
(『THE21』2016年1月号より)
更新:11月23日 00:05