2016年02月22日 公開
2016年02月26日 更新
ここ数年、爆発的に増えた「熟成肉」についても然りです。昨今では焼き肉チェーン店や牛丼チェーン店でも「熟成肉」がうたわれていますが、最大の問題は、日本では熟成について明確な定義がないことです。
アメリカからやってきた「ドライエイジング」については明確な定義があります。
「真空パック詰めされていないお肉を、温度1度前後、湿度70~80度の庫内で2~3週間寝かせる。その庫内には、お肉と相性のいい菌を木に付着させて置き、ファンで風を当てる」
今ではアメリカからやってきたように語られるこの技術ですが、実は日本にも、まだ「熟成」という言葉が輸入される前から「枯らし」と呼ばれる熟成方法がありました。
市場から買ってきた枝肉(骨付きの牛の半身)を、そのままの状態で室温1~4度程度に設定した冷蔵庫内に吊るして3~4週間放置します。風を当てたりはしませんが、庫内にはお肉に相応しい菌が繁殖していて熟成が進みます。この業界では昔から「お肉は腐りかけが美味しい」と言われていましたが、私たち日本人も経験的に「枯らす」「干す」ことで熟成させていたのです。
ドライエイジングという手法は、欧米で主流のブラックアンガスやホルスタインといった牛種に合います。ところがサシが豊富に入った和牛の場合には、枯らし熟成のほうが合うようです。さらに4週間程度枯らし熟成をかけたあとの「追加熟成」という工程も大事です。
このように、多くの経験知に導かれ手間と時間をかけたお肉でなければ、本物の熟成肉とは言えないのです。
枝肉
黒毛和牛の美味しさのもう一つの秘密は、世界でこの種でしか食べられない「希少部位」の存在にあります。焼肉屋のメニューでも、かつては「ロース」と「カルビ」が主流でした。けれど現在では、「はねした」「みすじ」「イチボ」「ともさんかく」等、様々な部位が記されるようになりました。
私は一頭の牛を大きく「肩」「ロース」「ばら」「もも」と4分類し、小分類としては80以上に分けています。なかには、一頭から数百グラムしか取れないような幻の希少部位もあります。各部位にはそれぞれに個性があり、味わいが違います。
たとえば、肩にある「さんかく」です。近年は希少部位として肉料理店のメニューに載ったり、焼き肉屋では特上赤身として出していることも。
全体に美しいサシが入り、赤身とのバランスがとれているのが特徴です。脂の旨さと赤身の味と、どちらもしっかりと味わうことができ、焼いたときには香ばしい香りが感じられ、ファンを増やしています。
脂がくどくかったり、見た目だけ美しい霜降りに飽きた肉好きたちが、今もこうした赤身の世界を切り拓いています。
更新:11月22日 00:05